職場における主要なハラスメント対策では、企業が法律に基づき「方針の明確化」「相談窓口の整備」「迅速な対応」「再発防止」などの雇用管理上の措置を講じる必要があります。
これらは単なる推奨ではなく、労働施策総合推進法に基づき企業に求められる雇用管理上の措置であり、対応を怠ると法的責任や損害賠償リスクにつながります。
2020年のパワハラ防止法施行以降、企業には厳格な対策が求められており、適切な措置を怠れば生産性の低下や法的リスク、社会的信頼の低下につながる可能性があります。
本記事では、中小企業の担当者が実務で直面する「具体的に何をすべきか」という疑問に応え、2026年の法改正も見据えた包括的な対策マニュアルを提示します。
ハラスメント対策の基本|企業がやるべき義務化対応と実務フロー
職場におけるハラスメント対策マニュアル・パンフレット作成方法
Q: 中小企業でも2026年からカスハラ対策は義務化されますか?
ハラスメント対策とは?企業に求められる基本対応
企業に求められるハラスメント対策の基本義務は「方針明確化」「相談窓口設置」「迅速な事後対応」「不利益取扱いの禁止」の4つです。
これらは、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などに基づく雇用管理上の措置であり、企業規模を問わず対応が必要です。まずは法的に求められている必須事項を整理し、自社の状況を確認しましょう。
法的義務と努力義務の境界線
ハラスメント対策には、事業主が必ず講じなければならない措置(法的義務)と、望ましい取り組み(努力義務)に分かれています。
| 区分 | 項目 | 具体的な内容・対象 | 根拠 |
| 法的義務(必須対応) | 雇用管理上の措置 | 事業主の方針明確化、相談窓口の整備、事後の迅速な対応、プライバシー保護などが含まれます。 | |
| 法的義務(必須対応) | 不利益取扱いの禁止 | 相談や事実確認への協力を理由とした解雇、降格、減給などの不利益な取扱いの禁止 | |
| 努力義務(望ましい取組) | 一元的な相談体制 | 種類を問わずあらゆるハラスメントを一つの窓口で複合的に受け付ける体制の整備 | |
| 努力義務(望ましい取組) | 原因・背景の解消 | コミュニケーション活性化研修、適正な業務目標設定、実態把握のためのアンケート調査など | |
| 努力義務(望ましい取組) | 自社労働者以外への対応 | 他社の労働者、求職者、インターン、フリーランス等に対するハラスメント禁止の方針周知 | |
| 段階的義務化 | カスハラ・求職者セクハラ | 令和8年10月1日より、カスタマーハラスメント対策および求職者等へのセクハラ対策が義務化される(現在は望ましい取組) |
中小企業向け|ハラスメント対策チェックリスト
中小企業では、すべてのハラスメント対策を一度に整備するのは現実的ではありません。まずは「法的リスクが高い項目」から優先的に対応するのが望ましいです。
| 優先度 | 対策内容 | 義務 / 推奨 | 実施ポイント |
| 高 | 方針の明確化と周知 | 義務 | ハラスメントの内容と「行ってはならない」旨を社内報やHPで周知する。 |
| 高 | 就業規則への懲戒規定 | 義務 | 行為者への厳正な対処方針と具体的な懲戒内容を規定し周知する。 |
| 高 | 相談窓口の設置 | 義務 | 担当者を決め、従業員が利用しやすい体制を整える。 |
| 高 | 不利益取扱いの禁止 | 義務 | 相談や事実確認への協力を理由とした解雇等の不利益取扱いを禁止する。 |
| 高 | プライバシー保護措置 | 義務 | 相談者・行為者の機微情報(性的指向・病歴等)の保護をマニュアル化し周知する。 |
| 高 | 迅速かつ適切な事後対応 | 義務 | 相談があった際、迅速な事実確認、被害者配慮、行為者措置、再発防止を講じる。 |
| 中 | 研修・周知教育の実施 | 義務的側面 | 「ハラスメント」対策の重要性や、具体的な対応方法を理解するために実施する。 |
| 中 | アンケート等による実態把握 | 推奨 | 潜在的なリスクの早期発見のために、匿名のアンケートを実施する。 |
| 低 | 外部専門家との連携 | 推奨 | 社内対応が困難な場合に備え、社労士や弁護士、外部窓口への委託を検討する。 |
| 低 | カスハラ対策の整備 | 義務化予定 | 現在は推奨だが、令和8年10月1日から法的義務となるため、早期着手が望ましい。 |
まずは「方針整備」「就業規則」「相談窓口」の3点を優先的に整備してください。これにより法的リスクの大部分を早期に回避できます。
ハラスメント対策が企業経営に与える影響
ハラスメント対策を怠ると「損害賠償」「人材流出」「企業信用の低下」という3つの重大リスクが発生します。これらは経営そのものに直接影響する深刻な問題です。
ハラスメント対策を整備することで、主に以下のリスクを回避できます。
- 使用者責任に基づく損害賠償請求
- 安全配慮義務違反による訴訟リスク
- 離職率上昇による人材流出
- 職場環境悪化による生産性低下
- 企業ブランド・信用の毀損
特に近年はSNSや口コミサイトの影響により、問題が可視化されやすくなっており、初動対応の遅れが企業評価に直結します。
職場におけるハラスメント対策マニュアル・パンフレット作成方法

職場におけるハラスメント対策マニュアル・パンフレットは、「会社方針の明確化」「ハラスメント定義の整理」「相談窓口と対応フローの明示」の3点を中心に構成し、従業員が迷わず行動できる状態を作ることが重要です。
「ゼロからマニュアルを作る時間がない」という担当者の強い味方になるのが、国が提供している既存リソースです。
厚生労働省「あかるい職場応援団」の活用
厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」では、実務で使える資料が豊富に用意されています。
主な提供資料は以下の通りです。
- ハラスメント対策マニュアル
- 社内掲示用ポスター
- パンフレット
- 研修動画
- 企業事例集
既存テンプレートを活用することで、マニュアル・パンフレットを効率的に作成できます。多言語対応資料もあるため、外国人雇用がある企業でも活用しやすくなっています。
職場におけるパンフレット・社内マニュアルの構成テンプレート
実効性のある社内資料を作成するための推奨構成は以下の通りです。
1. 会社方針・トップメッセージ
最初に、「ハラスメントを許さない」という会社方針を明文化します。経営層からのメッセージを掲載することで、会社として本気で取り組む姿勢を示しやすくなります。
2. 各種ハラスメントの定義
従業員が判断しやすいよう、代表的なハラスメントを整理します。
主な記載例
- パワハラ(6類型・3要素)
- セクハラ(対価型・環境型)
- マタハラ・ケアハラ
- カスタマーハラスメント
- スメルハラスメント
「どこからがハラスメントか」を具体例付きで記載すると、無自覚な加害防止にもつながります。
3. 指導とハラスメントの違い
管理職向け資料では特に重要な項目です。人格否定ではなく、「業務上必要な範囲で具体的な行動を指摘すること」が適切な指導であると明記します。
4. 相談窓口の案内
相談先が分からない状態は、問題の放置につながります。
そのため、
- 相談方法(メール・電話・面談)
- 担当部署
- 外部窓口
- プライバシー保護
- 不利益取扱い禁止
などを明確に記載しましょう。
5. 事案発生時の対応フロー
相談後の流れを可視化することで、従業員の不安を軽減できます。
基本フロー例
- 相談受付
- 事実確認(ヒアリング)
- 判断・対応
- 行為者措置
- 再発防止
- フィードバック
対応フローを図解化すると、社内展開もしやすくなります。
上記の構成をベースに、自社の業種・規模・職場環境に合わせて調整すると、短期間でも実用的なマニュアルを整備しやすくなります。
【企業事例】他社が実際に行っているハラスメント対策の具体例

ハラスメント対策では、「制度を作るだけ」で終わらせず、継続的に職場へ浸透させることが重要です。ここからは、実際に企業が行っている取り組み事例を紹介します。
業種・規模別:企業の取り組み事例一覧表
| 企業名 | 主な施策 | 特徴・効果 |
| 電通ジャパン | マネジメントサーベイ | 社長を含む管理職が部下からどう見られているかを匿名調査。管理職の「無自覚」な言動を是正する効果。 |
| 大和ハウス | パワハラ防止ホットライン | 本社に専門部署を設置し、常時対応。全国の事業所へ直接出向き、対面で実態把握に努める。 |
| キリン | ハラスメント撲滅月間 | 毎年春に役員がメッセージを発信。全社員研修に加え、職場で意見交換を行うグループワークを実施し、風土を醸成。 |
| 小田急電鉄 | カスハラ対応方針策定 | 顧客への基本姿勢を社外に公表。「従業員を守る」姿勢を明確にすることで、現場の不安を解消。 |
ハラスメント対策施策の効果比較表
| 施策名 | 主な目的・効果 | 特徴とメリット |
| 研修 | 知識の標準化と予防 | 「何がハラスメントか」という基準を社内で統一し、正しい知識をインプットすることで、無自覚な加害者を生まない高い予防効果を発揮します。 |
| 相談窓口 | 早期発見・解決の鍵 | 問題が裁判や、メンタル不調などの深刻な事態に至る前に、迅速に事実確認を行い解決を図ることで、組織の自浄作用を高めます。 |
| 規定(就業規則) | 抑止力と処分の根拠 | 会社としての「ハラスメントを許さない」という強い姿勢を内外に示し、事案発生時に厳正な処分を下すための明確な法的根拠となります。 |
【カスハラ対応】従業員を守る「カスタマーハラスメント対策」マニュアル
カスタマーハラスメント対策は、法制化・義務化に向けた制度整備が進められており、企業には早期の対応準備が求められています。
対策マニュアルでは、「現場での単独対応を避ける組織対応」「発言・行動の記録化」「迅速なエスカレーション」の3原則を徹底し、従業員を組織として守る仕組みを整えることが重要です。
カスタマーハラスメントの定義と判断基準
カスハラとは、「社会通念上、許容範囲を超える要求や言動により、労働者の就業環境を害する行為」を指します。
「要求内容に妥当性があるか」「手段や態様が過剰ではないか」で判断します。
具体的な例は以下の通りです。
- 身体的・精神的な攻撃(暴言、威嚇、殴打、土下座要求)
- 過剰な要求(金品要求、不当な返品、規定外のサービス要求)
- 個人の侵害(SNSへの晒し、プライバシーへの立ち入り)
組織的な対応フロー(初動〜エスカレーション)
カスハラ対策の鉄則は「現場に従業員を一人で立たせない」ことです。
- 現場の初動対応:複数人で対応し、冷静さを保ちます。相手の不当な要求には、即答せず組織として検討する姿勢を示します。
- 記録と報告:5W1H(いつ・どこで・誰が・何を)に基づいて、暴言や行為を詳細に記録(録音・メモ)します。
- 上司へのエスカレーション:対応が困難な場合は、速やかに管理職や本部に交代します。「組織として対応している」ことを相手に見せます。
- 組織的判断:悪質な場合は「これ以上の対応は致しかねます」とはっきり拒否し、必要に応じて警察への通報や弁護士を通じた法的措置を検討します。
- 従業員のメンタルケア:被害を受けた社員の心理的ダメージを過小評価せず、カウンセリングの実施や休暇の付与など、サポートを最優先します。
特に、記録の保存は非常に重要です。法的対応や社内判断の根拠になります。
【個人レベル】自分を守るための対策と相談の作法

ハラスメントに直面した場合は、早めの記録・相談が状況改善への第一歩です。あなたがハラスメントに直面した際や、同僚が悩んでいた時などは、以下の対策を行ってください。
被害者になったときの「確かな証拠」の残し方
相談窓口や労働局が動きやすくするために、以下の情報を記録します。
- 日時・場所: いつ、どこで起きたか
- 具体的な言動: どのような発言や行動があったか(録音データ、メール、チャット履歴も有効)
- 周囲の状況: その場に誰がいたか(第三者の証言)
- 自分の対応と影響: 自分がどう感じ、その後に心身へどのような変化(不眠、憂鬱など)があったか
被害者・加害者(無自覚なケース)双方の対処法
被害を受けたときは、アサーティブ・コミュニケーションを用いましょう。アサーティブ・コミュニケーションとは、自分も相手も尊重しながら、自分の意見や気持ちを伝える方法です。
例えば、「やめてください」「私はイヤです」「そのような言い方をされると傷つくので、やめていただけますか」など感情的にならず、自分の気持ちを正直に伝え、具体的な行動の停止を求めるのがポイントです。
また、管理職や指導する立場の人は、無自覚にハラスメントと受け取られるケースがあるため、注意が必要です。指導を行う際は、人格ではなく「具体的な行動や業務内容」に対して伝え、相手の成長を目的としていることを明確にしましょう。
業務上必要かつ適切な範囲での指導は、一般的にパワハラには該当しません。ただし、言い方や継続性、相手との関係性によって受け止め方が変わるため、冷静なコミュニケーションを意識することが重要です。
スメルハラスメントなどデリケートな問題への対処法
スメハラ(匂い)は非常にデリケートな問題です。直接指摘すると、トラブルに発展する可能性もあります。そのため、上司や相談窓口を通じて、「職場環境改善」の観点から対応する必要があります。
相談窓口の活用方法(社内・社外)
社内窓口の設置は義務付けられており、プライバシーは厳守されます。まずは社内での事実調査を依頼します。
社内の相談窓口で問題が解決しない場合や、社内では相談しにくい状況にある場合、外部の専門機関である都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」を活用してください。
外部の専門家が客観的に判断してくれるため、解決の糸口が見つかる可能性が高まります。匿名相談可能なため、プライバシーは厳守されます。
よくある質問
Q: 中小企業でも2026年からカスハラ対策は義務化されますか?
A: 2026年10月からは、中小企業を含む全事業者にカスハラ対策が義務化される予定です。
企業規模を問わず「雇用管理上の措置」の実施が必要になります。相談窓口整備や対応マニュアル作成など、早期の準備が必要です。
Q: 「指導」のつもりがパワハラと言われないためには?
A: パワハラ防止には、人格ではなく行動や業務内容を具体的に指摘することが重要です。
感情的に怒鳴るのではなく、改善点を冷静に伝え、相手の話も聞く姿勢が必要です。相手の成長を目的にした対話型の指導を意識しましょう。
まとめ|ハラスメントのない「心理的安全性の高い」職場を目指して

ハラスメント対策は、単なる法令遵守ではなく、従業員が安心して働ける環境を整え、企業の信頼や生産性を守るために欠かせない取り組みです。
現在は、企業規模を問わず、
- 方針の明確化
- 就業規則の整備
- 相談窓口の設置
- 迅速な事後対応
などの対応が求められています。
まずは、トップ方針の明文化・社内規程整備・相談体制構築の3点から着手すると進めやすくなります。
「自社が義務対象か確認したい」「社内規程やカスハラ対策について相談したい」という場合は、専門家へ相談することでスムーズに対応を進めやすくなります。
詳しい制度情報や企業向けサポート内容については、社会保険労務士法人グロースアシスト公式サイトを確認してください。
【参照元】