職場における主要なハラスメント防止措置は、企業規模を問わず義務化されている重要なコンプライアンス対策です。 防止措置を怠ると、行政指導・企業名公表・損害賠償などのリスクにつながります。
特に近年は、SNSによる炎上や口コミ拡散の影響もあり、「ハラスメントが起きない職場づくり」は採用・定着・企業ブランドにも直結する経営課題となっています。
本記事では、法的義務から研修・規程整備・実践策まで、企業が行うべきハラスメント防止対策を体系的に解説します。
ハラスメント防止とは?企業に義務化された背景

ハラスメント防止とは、企業が従業員を守り、安全に働ける職場環境を整備するために行う対策です。現在は、パワハラ・セクハラ・妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメントの防止措置が法律で義務化されており、相談窓口設置や規程整備、周知・啓発などの対応が企業に求められています。
ハラスメント防止が重要視される理由
ハラスメント防止は、単なる社員トラブル対策ではなく、企業経営に直結する重要課題です。
ハラスメントが放置された職場では、
- 離職率の悪化
- メンタル不調による休職
- 生産性低下
- SNS炎上
- 採用難
- 安全配慮義務違反
など、さまざまなリスクが発生します。
特に近年は、SNSによって職場環境が可視化されやすくなっています。ハラスメント対策を整備することで、採用力と社会的信用度の向上につながります。
そのため、現在のハラスメント防止は法対応だけでなく、働きやすい職場づくりや企業価値向上の観点から取り組む必要があります。
企業に義務付けられている主なハラスメント対策
現在、企業には複数の法律に基づくハラスメント防止措置が義務付けられています。
| 種類 | 対象行為の例 | 法律 | 主な義務 |
| パワハラ | 暴言、人格否定、過大要求、無視 | 労働施策総合推進法 | 防止措置義務 |
| セクハラ | 性的発言、身体接触、性的関係強要 | 男女雇用機会均等法 | 雇用管理上の措置 |
| マタハラ・パタハラ | 妊娠・育休取得への嫌がらせ、不利益扱い | 育児介護休業法 | 不利益取扱い禁止 |
企業に求められているのは、「問題が起きた後の対応」だけではありません。
- 方針の明確化
- 相談窓口の設置
- 周知・啓発
- 就業規則整備
- 再発防止
など、未然防止のための環境整備まで義務化されています。
特に2022年からは、中小企業にもパワハラ防止措置が全面義務化されているため、法的義務を正しく理解することで、リスクを事前に回避できます。
企業が行うべきハラスメント防止措置チェックリスト
厚生労働省「パワーハラスメント防止指針」では、企業に対して以下の防止措置が求められています。
| 項目 | 内容 |
| 方針の明確化と周知 | 「ハラスメントを許さない」方針を社内へ周知する |
| 行為者への対処方針の規定 | 就業規則へ懲戒規定を明記する |
| 相談窓口の設置 | 社内外の相談窓口を整備する |
| 適切な相談対応 | 発生のおそれがある場合や微妙な事案も含め、広く適切に対応できる体制を整える |
| 事実確認 | 当事者双方へ公平にヒアリングする |
| 被害者への配慮 | 配置転換やメンタルケアを行う |
| 行為者への措置 | 懲戒や指導を適切に実施する |
| 再発防止 | 研修・啓発を改めて行う |
| プライバシー保護 | 相談内容の秘密を守る |
| 不利益取扱い禁止 | 相談を理由に不当扱いしない |
重要なのは、「制度を作っただけ」で終わらせないことです。
たとえば相談窓口があっても、
- 担当者が信用されていない
- 匿名相談できない
- 上司に情報が漏れる不安がある
といった状態では、実際には機能しません。
制度と運用の両方を整備することが、実効性のあるハラスメント防止に繋がります。
社内規程に盛り込むべきハラスメント防止ルール

社内規程に盛り込むべきハラスメント防止ルールは、「禁止行為の明確化」「相談窓口と対応フロー」「加害行為への処分基準」を具体的に定めることです。
誰が見ても判断できる基準を明文化しておくことで、ハラスメントの予防・早期対応・企業リスクの低減につながります。
ハラスメント防止規程テンプレート構成案
ハラスメント防止規程では、「何を禁止し、どう対応するのか」を明確にすることが重要です。厚生労働省のモデル規程を参考にしながら、以下の項目を整備しましょう。
| 項目 | 条項例(抜粋) |
| 目的 | ハラスメントを許さない方針を明記 |
| 定義 | パワハラ・セクハラ・マタハラ等の定義を明記 |
| 禁止行為 | ハラスメントに該当する禁止行為を明記 |
| 相談窓口 | 相談先・対応フローを明示 |
| プライバシー保護 | 相談者情報の秘密保持を講じることを明記 |
| 不利益取扱い禁止 | 相談者への不当な扱いを禁止する法的義務を明記 |
| 懲戒 | 違反時の処分内容の基準を規定する |
特に中小企業では、ゼロから規程を作るよりも、モデル規程をベースにカスタマイズするのが現実的です。自社の業種・働き方・組織規模に合わせて調整すると運用しやすくなります。
厚生労働省モデル規程を参考にするメリット
厚生労働省のモデル規程を活用することで、以下のメリットがあります。
- 法的整合性を確保しやすい
- 実務転用しやすい
- 行政指導対策になる
- 抜け漏れを防ぎやすい
就業規則の内容が法令や労働協約に反する場合、労働基準監督署長はその変更を命ずることができます。そのため、モデル規程に基づいて作成することで、リスクを最小限に抑えることにつながります。
就業規則に記載する際の注意点
就業規則へ記載する際は、抽象的な表現だけにしないことが重要です。たとえば、「他人を不快にさせる行為を禁止する」だけでは、具体性が不足します。
そのため、
- 暴言
- 無視
- 性的発言
- 過度な叱責
- SNS上での誹謗
など、具体例も記載すると判断基準が明確になります。
また、
- 懲戒規定との連動
- 社外ハラスメント対応
- カスタマーハラスメント対策
まで含めると、実務上のトラブル対応がしやすくなります。
ハラスメント防止研修の進め方と実践ポイント
ハラスメント防止研修は、「何がハラスメントに該当するのか」を理解させるだけでなく、実際の言動や対応方法まで落とし込むことが重要です。
管理職・一般社員ごとに内容を分け、事例共有やロールプレイを取り入れることで、現場で機能する再発防止につながります。
研修が形だけで終わる企業の特徴
ハラスメント研修は、多くの企業で実施されています。しかし実際には、「受講しただけ」で終わっているケースも少なくありません。
よくある失敗例は以下の通りです。
- 動画視聴のみで終わる
- 管理職が他人事
- 毎年同じ内容
- ケーススタディ不足
- 現場とのズレが大きい
特に、無自覚な威圧的指導や公開叱責により、意図せずパワハラと受け取られないよう、具体的な事例で境界線を学ぶことが重要です。
そのため研修では、法律知識だけでなく、“現場で起こりやすい具体例”を扱うことが重要です。
効果的な研修プログラムの作り方
対象者ごとに内容を変えることで、研修の実効性は大きく変わります。
| 対象 | 内容 | 頻度 | ワーク例 |
| 一般社員 | 基礎知識・相談方法 | 年1回 | ケース判断 |
| 管理職 | 指導との境界線 | 半年〜年1回 | ロールプレイ |
| 人事担当 | 調査・対応方法 | 必要時 | 初動対応訓練 |
また、研修後は効果測定も重要です。
効果測定の例としては、以下のものがあげられます。
- 理解度テストによる知識の定着確認
- 研修アンケート
- ストレスチェック結果
- 相談件数推移
- 離職率
これらはハラスメント対策の運用状況を把握するのに適しています。
「相談件数ゼロ」を指標にするのは危険です。相談する事項がないのではなく、相談できない空気になっている可能性もあるためです。
オンライン研修・eラーニング活用のメリット
近年は、オンライン研修やeラーニングを活用する企業も増えています。
主なメリットは以下の通りです。
- 全社員へ展開しやすい
- 受講記録を残せる
- コスト削減
- 中小企業でも導入しやすい
ただし、動画視聴だけで終わると形骸化しやすいため、
- 確認テスト
- ケースディスカッション
- 上司との対話
などを組み合わせることで、実効性が高まりやすくなります。
ハラスメント防止ポスター・掲示物の活用法
ハラスメント防止ポスターは、単なる掲示物ではありません。 「会社がハラスメントを許さない」という姿勢を継続的に示すことで、抑止力や相談しやすい環境づくりに繋げられます。
効果的な掲示場所は以下の通りです。
- 休憩室
- エレベーター
- 会議室前
- 社内SNS
- 社員ポータル
これらは社員の目に触れやすい場所です。アナログとデジタルを併用するのが効果的です。ただし、ポスターを貼るだけで終わらせない工夫が必要です。
たとえば、
- 相談窓口のQRコードを掲載する
- 「公開叱責はNG」など具体的なNG言動を入れる
- 毎月テーマを変更する
- 管理職向けメッセージを追加する
など、実際の行動変化に繋がる工夫を取り入れることで、啓発効果が高まりやすくなります。厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」では、QRコードが記載されたポスターが無料でダウンロードできます。ぜひ、ご活用ください。
中小企業でもできるハラスメント防止の取り組み

中小企業では、「何から始めればいいかわからない」「対策が場当たり的になっている」というケースも少なくありません。
ハラスメント防止対策は、一度にすべてを整備する必要はありません。
まずは、
- 規程・方針
- 環境整備
- 相談窓口
- 研修・啓発
の4つを整理し、優先度の高いものから段階的に進めるのが効果的です。
【優先実施ステップ】規模別・予算別比較表
リソースが限られる中小企業では、自社の規模や予算に合わせて、無理なく実行できる対策から着手することが推奨されます。
| ステップ | 項目 | 小規模企業の進め方 | 中規模企業の進め方 | 優先度 |
| Step 1 | 規程・方針 | 厚生労働省のモデル規程を参考に、既存の就業規則へ条項を追加する | 就業規則とは別に「ハラスメント防止規程」を整備し、カスハラ等にも対応する | ★★★ |
| Step 2 | 環境整備 | 経営者が方針を宣言し、無料ポスターや社内掲示で周知する | 無記名アンケートでリスクを可視化し、重点対策を整理する | ★★★ |
| Step 3 | 相談窓口 | 担当者を決め、自治体の無料マニュアル等を活用して対応を学ぶ | 外部相談窓口を導入し、匿名性・公平性を高める | ★★☆ |
| Step 4 | 研修・啓発 | 無料動画や資料を使い、小規模な勉強会を実施する | 外部講師によるケーススタディ型研修を定期実施する | ★★☆ |
特に中小企業では、「完璧な制度づくり」よりも、まず機能する仕組みを作ることが重要です。
たとえば、
- 方針を社内へ明確に伝える
- 相談先を明示する
- 管理職の言動を見直す
だけでも、職場環境は大きく変わりやすくなります。
現場管理職が日常で心がけるべきこと
ハラスメント防止では、制度整備だけでなく、管理職一人ひとりの日常の心がけも重要です。
特に意識したいポイントは以下の通りです。
- 公開叱責を避ける
- 感情で指導しない
- 「自分基準」ではなく相手基準を持つ
- 雑談しやすい空気を作る
たとえば、「指導のつもりだった」言動が、受け手には人格否定や威圧的な態度と受け取られるケースもあります。
そのため、ハラスメント防止ではルール整備だけでなく、「相手がどう感じるか」を意識したコミュニケーションが欠かせません。
管理職の小さな声掛けや日常対応の積み重ねが、相談しやすい職場環境づくりや、ハラスメントの未然防止に繋がります。
ハラスメント防止は外部コンサルタントに依頼すべき?
ハラスメント防止を外部に依頼すべきかは、社内だけで運用・改善できる体制があるかで判断すべきです。規程整備・研修・相談窓口運用に不安がある場合は、専門家を活用することで法対応の抜け漏れ防止や、実効性の高い対策につながります。
ここでは、外部依頼するべきかどうか比較していきます。
社労士・コンサルタント・行政支援比較
| 支援先 | 主な役割 | 費用感の目安 | 向いているケース |
| 社会保険労務士 | 就業規則改定、ハラスメント防止規程整備、労務相談、研修講師 | 顧問契約:月2万〜10万円前後 規程作成:5万〜30万円前後 研修:5万〜20万円前後 | 法対応を整えたい/規程や相談窓口を整備したい |
| 外部コンサルタント | 組織風土改善、管理職教育、実践型研修、再発防止支援 | 研修:20万〜50万円前後 組織改善コンサル:月5万〜30万円以上 | 組織改革まで進めたい/再発防止を重視したい |
| 行政支援 | 無料相談、マニュアル提供、セミナー、企業事例紹介 | 無料 | まず情報収集したい/低コストで始めたい |
自社対応と外部委託を切り分ける際は、「どこまで専門性が必要か」で判断することが重要です。
- 社内で基本的な周知や研修ができる → 自社対応中心でも可能
- 規程整備や法改正対応に不安がある → 社労士活用が有効
- 組織風土改善や再発防止まで必要 → 外部コンサルタントも検討
外部支援を利用するメリット・デメリット
外部支援を利用するメリットは以下の通りです。
- 専門性が高い
- 第三者視点が入る
- 最新法改正に対応できる
一方で、コストがかかる、社内定着は別途必要というデメリットもあります。
信頼できる支援会社を選ぶポイント
依頼先を選ぶ際は、以下を確認しましょう。
- 企業支援実績
- 研修事例
- 法改正対応
- 継続支援体制
- 助成金知識
特に「研修だけ」で終わらず、制度運用まで支援できるかは重要な判断ポイントになります。
ハラスメント防止に関するQ&A
Q. ハラスメント防止対策は中小企業でも義務ですか?
A. ハラスメント防止対策は、企業規模を問わず中小企業にも義務化されています。
現在は、パワハラ防止措置を含め、相談窓口設置・規程整備・研修実施などが求められています。まずは厚生労働省のモデル規程を活用し、段階的に整備を進めることが重要です。
Q. ハラスメント研修は年1回だけでも効果がありますか?
A. ハラスメント研修は、年1回実施するだけでは形骸化しやすい傾向があります。
特に管理職は、ケーススタディやロールプレイを通じて「指導との境界線」を学ぶことが重要です。ポスター掲示や日常的な声掛けと組み合わせることで、実効性が高まりやすくなります。
まとめ|ハラスメント防止は職場づくりの時代へ

ハラスメント防止は、企業規模を問わず求められる重要なコンプライアンス対策です。現在は、規程整備・研修・相談窓口設置などの防止措置が義務化されており、形式だけでなく実効性が重視されています。
また、ハラスメント対策は単なるトラブル防止ではありません。
- 相談しやすい環境づくり
- 管理職教育
- 心理的安全性の向上
- 離職防止や組織改善
など、働きやすい職場づくりにも直結します。
まずは、自社の現状を整理し、規程整備・研修・相談体制の見直しから段階的に進めていくことが重要です。
自社対応に不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家へ相談することで、法対応や制度整備をスムーズに進めやすくなります。
ハラスメント防止対策について詳しく知りたい方は、社会保険労務士法人グロースアシストの公式ウェブサイトもご確認ください。
【参照元】