ハラスメント対策は、企業規模を問わず重要な経営課題になっています。 近年は、パワハラ・セクハラだけでなく、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応も強く求められるようになりました。
一方で、
- 厚生労働省の資料が多く探しづらい
- どの指針を参考にすべきかわからない
- 対応マニュアルやヒアリングシートを一から作れない
という担当者も少なくありません。
この記事では、厚生労働省が公開しているハラスメント関連資料を「定義・指針・対応マニュアル・カスハラ・統計データ・研修制度」に分けて整理します。 人事・総務担当者や医療・介護現場の管理者向けに、実務で活用しやすい形で解説します。
カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する厚生労働省の考え方
厚生労働省の資料を活用し、自社に合ったハラスメント対策を進めよう
ハラスメントに関する厚生労働省の基本方針とは?

厚生労働省は、働く人が能力を十分に発揮し、個人としての尊厳を傷つけられない職場環境を整えることを重視しています。ハラスメント対策を整備することで、人材の定着や社会的評価の向上につながります。
厚生労働省が定める「ハラスメント」の定義・種類一覧表
厚生労働省は主に以下の種類ごとに定義を定めています。いずれのハラスメントも、「働く人の意欲を低下させ、職場環境を悪化させる不適切な言動」であることが共通の概念です。
| ハラスメントの種類 | 定義 |
| パワーハラスメント | ① 優越的な関係を背景とした言動 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの ③ 労働者の就業環境が害されるもの |
| セクシュアルハラスメント | ①労働者の意に反する「性的な言動」により、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されること ②性的な言動を拒否したことで解雇や降格などの不利益を受ける ③性的な言動により就業環境が不快なものとなり、能力発揮に重大な支障が生じる |
| 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント | ①上司や同僚の言動により就業環境が害される ② 休業や短時間勤務などの制度利用を阻害したり、利用を理由に嫌がらせをする ③妊娠・出産したこと自体を理由として、解雇を示唆したり不適切な言動を行ったりする |
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラには該当しません。セクシュアルハラスメントは、相手の性的指向や性自認にかかわらず、不適切な言動は対象となり得ます。
厚生労働省が企業に求める義務と関連法
現在、以下の4種類のハラスメント防止対策が事業主の義務となっています。
- 労働施策総合推進法(パワハラ防止法): 職場におけるパワハラ防止措置を義務付けています。
- 男女雇用機会均等法: セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産等に関するハラスメントの防止を義務付けています。
- 育児・介護休業法: 育児休業や介護休業等の利用に関するハラスメント防止を義務付けています。
企業には具体的に、「相談窓口の整備」「事実確認の実施」「被害者への配慮」「行為者への適正な措置」「再発防止策」などが求められています。これらは中小企業でも義務化されており、適切な体制整備が必須です。
また、企業には労働契約法に基づく「安全配慮義務」もあり、ハラスメントを放置した場合には、職場環境配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性もあります。
厚生労働省の指針が重要視される理由
厚生労働省が公表する指針は、法律に基づき、企業が雇用管理上必ず講じなければならない措置の具体的な基準を定めたものです。法的義務を果たすための役割を担っています。
- 社内規程作成の法的根拠となる: 指針に沿った規程を作成することで、法的リスクを適切に管理できます。
- 労務トラブル発生時の判断基準となる: 実際に問題が起きた際、組織として一貫性のある適正な対処が可能になります。
- 社内研修への活用: 「何が適切な指導で、何がハラスメントか」という境界線を全社員に正確に伝えられます。
- 企業の経営リスク回避に直結:指針を遵守することは、企業価値を守ることにつながります。
厚生労働省が公開している主なハラスメント資料一覧
実務を進めるにあたり、厚労省の資料をどのように使い分けるかが重要になります。
厚生労働省のパンフレット・指針・マニュアル一覧
| 資料名 | 主な内容 | 活用場面 |
| 指針(告示) | 法律に基づき企業が講ずべき措置の基準 | 就業規則の改定、法的リスクの確認 |
| 対策パンフレット | 各ハラスメントの定義や具体例、チェックリスト | 管理職・一般社員への周知教育、社内配布 |
| 対応マニュアル | 相談窓口の設置方法や事実確認のフロー | 人事担当者の実務、相談窓口の運用 |
| 企業事例集 | 他社の取り組み事例や裁判例の紹介 | 自社の対策検討、研修資料の作成 |
厚生労働省のハラスメント資料の入手先と活用方法
最も便利な窓口は、厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」です。
- パンフレット: 従業員向けの啓発チラシや、管理職向けの解説書に活用できる
- 研修動画: 5〜10分程度の短い動画でハラスメントを学べます。「管理職向け」「全社員向け」「相談担当者向け」と分かれており、社内研修にそのまま活用できる
- カスハラ対策資料: 企業マニュアルやポスターを取得できる
- 業種別資料: スーパーや宅配業など、特定の業界におけるカスハラ対策資料が充実
- ヒアリングシート:相談窓口での一次対応、事実関係の調査、人事上の措置を検討する際の資料として活用できる
厚生労働省のハラスメント対応マニュアルで確認すべきポイント

問題が発生した際の初動を丁寧に行うことで、問題の早期解決と二次被害防止につながります。マニュアルに従った体制整備が必要です。
中小企業が厚生労働省のマニュアルを活用するメリットは、コストをかけずに法的基準を満たした仕組みを構築できる点にあります。一から作成する余裕がない場合でも、公開されている雛形を活用すれば効率的です。
ハラスメント対応の基本フロー
厚生労働省が推奨する対応の流れは以下の通りです。
- 相談受付: 相談窓口(社内・社外)を設置し、周知します。
- ヒアリング: 相談者と行為者の双方から話を聞きます。
- 事実確認: 主張に食い違いがある場合は、第三者からも聴取します。
- 判断と措置: ハラスメントの有無を判定し、加害者への懲戒や被害者の環境改善を行います。
- 被害者保護と再発防止: プライバシーを守り、同様の問題が起きないよう研修等を実施します。
ハラスメント対応では、「相談を受けた後にどう動くか」が企業の信頼性を大きく左右します。
ハラスメント対応で企業が注意すべき実務ポイント
- 双方から公平に聴取する: 相談者の言い分だけでなく、行為者の言い分も公平に聞く必要があります。
- プライバシーの徹底配慮: 相談者・行為者双方の情報を厳重に管理し、関係者以外に漏らさないようにします。性的指向や不妊治療などの機微な情報にも配慮が必要です。
- 不利益取扱いの禁止: 相談したことや調査に協力したことを理由に、解雇や降格などの不利益な扱いをしてはなりません。
- 記録の保存: 対応の過程はすべて記録し、将来的な紛争に備えて適切に保存します。
例えば、初動段階で一方の主張だけを鵜呑みにして処分を行った場合、後に「調査不足」や「不当処分」として別の労務トラブルへ発展するケースもあります。厚生労働省のマニュアルでも、事実確認の公平性や記録保存の重要性が繰り返し示されています。
ヒアリングシートで確認すべき項目
正確な事実確認のために、以下の項目を網羅した記録を残すことが重要です。
- 発生日時・場所: いつ、どこで起きたか。
- 具体的な言動: どのような発言や行動があったか。
- 関係者の有無: 周囲に見ていた人(証人)はいたか。
- 継続性・頻度: 1回限りか、繰り返されているか。
- 業務上の関連性: どのような仕事の文脈で起きたか。
- 本人の心身状況: どのような苦痛を感じ、業務にどう影響しているか。
- 証拠資料の有無:手帳、業務記録、メール、録音データ等の有無
公正な立場から事実を整理していくことが求められます。
カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する厚生労働省の考え方

近年、顧客や利用者からの暴言・理不尽な要求が社会問題化しており、令和8年10月からはカスハラ防止対策が企業の義務となります。
厚生労働省が定義するカスタマーハラスメントとは?
職場におけるカスハラは、以下の3要素をすべて満たすものを言います。
- 顧客等による言動であること
- 業務の性質等に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
具体的な「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の例には、以下が含まれます。
- 暴言、威圧的な言動
- 過剰な要求、対応困難な要求
- 長時間拘束、居座り
- SNSへの投稿を盾にした脅迫
- 身体的な攻撃、土下座の強要
カスハラ対策で企業に求められること
義務化に伴い、事業主は以下の措置を講じる必要があります。
- 対応方針の策定: 毅然とした対応を行う方針を明文化し、従業員に周知します。
- 従業員保護の体制: 一人で対応させない、犯罪行為は警察に通報するなどのルールを決めます。
- 相談体制の整備: 従業員がすぐに相談できる窓口を設けます。
- 被害者のケア: メンタル不調への相談対応などのフォローを行います。
訪問看護・介護現場で問題になりやすいケース
介護・医療現場では、利用者本人だけでなく、その家族からのハラスメントも深刻です。
- 利用者家族からの執拗な暴言や威圧
- 身体への不必要な接触(セクハラ)
- 深夜・早朝の過度な電話要求
- 契約範囲を大きく逸脱したサービス提供の強要
訪問看護・介護現場では、組織として対応基準を設けることで、職員の負担軽減と定着率向上につながります。従業員を守るためにも、組織として対応基準を明確にする必要があります。
カスハラ対応チェックリスト
厚生労働省の指針が求める「事業主が講ずべき措置」を網羅したチェックリストです。自社の基準整備や体制点検にご活用ください。
| 点検項目 | 確認すべき具体的内容 |
| カスハラの定義と対応基準の明確化 | 社内方針を明確にし、就業規則やマニュアル、ポスター等で従業員に周知・啓発しているか |
| サービス提供・対応を打ち切るラインの策定 | 「暴力・暴言・土下座の要求・不当な損害賠償要求」など、これ以上は対応しないという組織としての「拒絶・終了ライン」を定めているか |
| 現場での記録・録音ルールの確立 | 事実関係を正確に把握するため、面談記録の作成や、必要に応じた録音・録画を行うための手順と法的留意点(プライバシー配慮等)を整理しているか |
| 一人で対応させない体制の整備 | 危険が予想される家庭への訪問を複数人体制にする、あるいはトラブル発生時に即座に管理監督者の指示を仰げるエスカレーションフローがあるか |
| 相談窓口の設置と周知 | 被害を受けた従業員が、迷わず、かつ不利益を恐れずに相談できる窓口(担当者)をあらかじめ定めているか |
| 被害を受けた職員のケア体制 | メンタルヘルス不調への相談対応や、配置転換の検討、必要に応じた法的な解決支援など、職員を孤立させないサポートがあるか |
| 悪質な事案に対する警察・弁護士連携 | 犯罪に該当し得る言動(暴行・脅迫・居座り等)に対し、躊躇なく警察へ通報する体制や外部専門家と連携する手順があるか |
カスハラ対策において重要なのは、「従業員の安全を最優先し、組織として守る」という姿勢を明確に打ち出すことです。
厚生労働省公表のハラスメント件数・実態データ

ハラスメントの実態を把握することは、経営層への説明や社内ルールの見直しにおいて非常に説得力のある根拠となります。
厚生労働省・労働局が公表しているハラスメント件数データ
都道府県労働局に寄せられる相談の中で、「いじめ・嫌がらせ」は依然として高い水準にあり、対策は企業の喫緊の課題です。
| 項目 | 統計データ(令和6年度公表値等) | 傾向と分析 |
| パワーハラスメント相談件数 | 6万件超(2年連続) | 都道府県労働局への相談件数は高止まりしており、最も深刻な課題です。 |
| 個別労働紛争の相談内容 | 「いじめ・嫌がらせ」がトップ | 平成24年度以降、あらゆる相談の中で最多の件数を占め続けています。 |
| 精神障害の労災補償状況 | 支給決定件数のうち多数が「嫌がらせ等」 | ひどい嫌がらせや暴行による精神障害の労災認定は高水準で推移しています。 |
これらのデータは、ハラスメントが「自社では起きていないはず」という認識を改めさせ、未然防止の必要性を訴えるのに有効です。
業界別で発生しやすいハラスメント
| 業種 | パワーハラスメント | 顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ) |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 41.1% | 23.3% |
| 医療、福祉 | 35.5% | 38.5% |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 35.2% | 25.1% |
医療・介護、サービス業、営業職など、対人業務が多い業種ではパワハラやカスハラの発生リスクが高い傾向にあります。特に管理職層がハラスメント問題への理解を深めることが、組織全体の健全化に直結します。
ハラスメント対応を学ぶための資格・研修制度
ハラスメント対応には専門的な知識が必要です。厚生労働省の資料自習に加え、外部の資格や研修を活用することも有効です。
ハラスメント対応に役立つ資格・研修制度一覧【目的別比較表】
| 資格・研修制度 | 特徴 | 向いている人 | 学べる内容 |
| ハラスメント相談員講座 | 実務に即した手法を短期間で習得 | 人事・相談窓口担当者 | ヒアリング技法、初動対応の要点 |
| 社会保険労務士(社労士) | 労働法全般の専門家。規程整備に強い | 管理職、経営層 | 法制度の理解、就業規則への落とし込み |
| メンタルヘルス系資格 | 産業カウンセラー等、心理ケアの側面 | 相談担当者、保健スタッフ | 被害者へのフォロー、メンタルケア |
| 厚労省関連の無料研修資料 | 動画やマニュアルで基礎を網羅 | 中小企業の全社員、管理職 | ハラスメントの基礎知識、NG例の把握 |
| 外部専門家による企業研修 | 自社の課題(カスハラ等)に合わせた内容 | 全社員、経営層 | 実例に基づいたロールプレイ、対応訓練 |
自社に合った学習手段を選ぶポイント
- 相談窓口を新設する場合: まずは厚労省の「相談窓口担当者向け動画」を視聴し、必要に応じて実務講座の受講を検討しましょう。
- 管理職の意識を変えたい場合: 判例や法的責任(損害賠償リスク)を学べる社労士等の専門家による研修が効果的です。
- カスハラ被害を防ぎたい場合: 「あかるい職場応援団」にある業界別のカスハラ対策研修資料やVR動画を活用し、具体的な対応シミュレーションを行いましょう。
外部専門家へ相談する重要性
ハラスメント事案は、主観が絡むため判断が難しいケースが多々あります。特にカスハラは法的論点(不当要求と正当な苦情の境界線など)が多く、独断での対応はリスクを伴います。
就業規則の整備から実際の紛争解決まで含め、社労士や弁護士などの専門家と連携できる体制を整えておくことが、企業の防衛に繋がります。
まとめ:厚生労働省の資料を活用し、自社に合ったハラスメント対策を進めよう
厚生労働省のハラスメント関連資料は、定義や指針を確認するだけでなく、相談窓口整備・社内規程作成・カスハラ対策・管理職研修など、実務にも幅広く活用できます。
特に近年は、パワハラ・セクハラに加えて、カスタマーハラスメントへの対応も重要視されており、企業規模を問わず適切な体制整備が求められています。
ハラスメント対策は、「資料を読むこと」が目的ではなく、自社に合ったルールや運用へ落とし込むことが重要です。
制度対応や社内体制整備を進めたい場合は、社労士へ相談しながら進めることで、法改正や実務リスクにも対応しやすくなります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【参照元】