ハラスメントは法律によって防止措置が義務化されており、対応を怠った企業は行政指導・企業名公表・損害賠償責任を問われるケースもあります。

企業がまず優先して対応すべきなのは、「方針の明確化・周知」「相談窓口設置」「就業規則整備」「迅速な調査対応」「プライバシー保護・不利益取扱い禁止」です。 特に“相談放置”は、安全配慮義務違反として企業責任を問われやすいため注意が必要です。 

職場におけるハラスメント対策は、もはやマナーではなく、企業の存続を左右する「経営上の重要課題」です。この記事では、人事担当者や管理職が正しくリスクを見積もり、実務に対応できるよう、ハラスメントに関する法律・罰則・法改正・判断基準を整理して解説します。

ハラスメントの種類と適用される法律一覧【4つの主要ハラスメント】

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)とは

セクハラ・マタハラ・ケアハラに関する法律

どこからがハラスメント?法律上の定義と判断基準

パワーハラスメントと認定される3要件

パワハラ6類型と行為例

セクシュアルハラスメント(セクハラ)の定義と2つの類型

対価型セクシュアルハラスメント

環境型セクシュアルハラスメント

グレーゾーン事例の解説

【罰則と責任】ハラスメント対策を怠ることで生じる3つの重大リスク

① 行政上の責任(行政指導・企業名公表)

② 民事上の責任(損害賠償)

③ 刑事上の責任(刑事罰)

企業が最も警戒すべき「相談放置」という義務違反

ハラスメント対策はいつから義務化?法改正の年表と対応期限

ハラスメント対策・法改正年表

2026年から義務化されるカスタマーハラスメント対策

企業規模別の対応期限チェックリスト

法改正で義務化された「4つの雇用管理上の措置」

ハラスメントの法律に関するよくある質問

Q. ハラスメントは法律違反になりますか?

Q. ハラスメント防止法は中小企業も対象ですか?

Q. パワハラに罰則はありますか?

まとめ|ハラスメント対策は企業を守る“法的義務”

ハラスメントの種類と適用される法律一覧【4つの主要ハラスメント】

現在、職場で特に防止措置が義務付けられているのは、「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産等に関するハラスメント」「育児・介護休業等に関するハラスメント」です。なお、カスタマーハラスメント対策は令和8年10月1日から事業主の義務となります。 

それぞれ適用される法律や事業主に求められる措置が異なるため、自社で発生した事案がどの法律に該当するのか整理して理解する必要があります。

ハラスメントの種類主な根拠法律概要・事業主の義務
パワーハラスメント(パワハラ)労働施策総合推進法(パワハラ防止法)優越的な関係を背景とした言動への防止措置
セクシャルハラスメント(セクハラ)男女雇用機会均等法性的な言動による就業環境悪化の防止
妊娠・出産等に関するハラスメント 男女雇用機会均等法 妊娠・出産等に関する言動により就業環境が害されることの防止 
ケアハラスメント(育介ハラ)育児・介護休業法育児・介護休業等の取得に関する嫌がらせ防止
カスタマーハラスメント(カスハラ)改正労働施策総合推進法顧客等からの著しい迷惑行為への防止措置

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)とは

労働施策総合推進法に基づく「パワハラ防止法」は、企業へパワーハラスメント防止措置を義務付ける法律です。

セクハラ・マタハラ・ケアハラに関する法律

セクハラは「男女雇用機会均等法」、マタハラ・ケアハラは「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」に基づき、防止措置が義務付けられています。企業には、相談体制整備や不利益取扱い防止、再発防止措置などを講じる義務があります。

どこからがハラスメント?法律上の定義と判断基準

ハラスメントかどうかは、「受け手の気持ち」だけではなく、法律上の要件を満たすかで判断されます。ここでは、実務上重要となるパワーハラスメントとセクシュアルハラスメントの定義、および判断基準を整理します。 

パワーハラスメントと認定される3要件

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、以下の3つの要素すべてを満たすものと定義されています 

  1. 優越的な関係を背景とした言動: 職務上の地位や知識・経験の差など、抵抗が難しい関係性。
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えている: 社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない、または指導の手段・態様が不適当であること。
  3. 労働者の就業環境が害される: 体的・精神的な苦痛を与え、労働者が能力を十分に発揮できないほど職場環境が悪化すること

客観的に見て業務上必要かつ適正な範囲で行われる業務指示や指導は、パワハラには該当しません。

パワハラ6類型と行為例

厚生労働省の「パワーハラスメント防止指針」では、6類型が示されています。

  • 身体的な攻撃: 殴る、蹴る、物に当たるといった暴行・傷害
  • 精神的な攻撃: 人格否定の暴言、執拗な叱責。
  • 人間関係からの切り離し: 無視、仲間外し、長期間の別室隔離。
  • 過大な要求: 遂行不可能なノルマの強制、仕事の妨害。
  • 過小な要求: 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない。
  • 個の侵害: 私的なことに過度に立ち入る(性的指向や病歴の暴露含む)。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)の定義と2つの類型

職場におけるセクシュアルハラスメントの定義は、以下の4つの点を満たすものです。

  • 職場内で行われること
  • 労働者の意に反していること
  • 性的な言動であること
  • 上記3点により、労働条件で不利益を受けたり、職場環境が害される

上記4点を満たすなかで、男女雇用機会均等法においてセクハラは2つの類型に分けられます。

対価型セクシュアルハラスメント

労働者が性的な言動に対する拒絶や対応によって、解雇、降格、減給などの労働条件上の不利益を受けるケース,。

具体例: 上司が交際を求めたが断られたため、その腹いせに部下を低い人事評価にする、あるいは降格させるといった行為が該当します,。

環境型セクシュアルハラスメント

性的な言動が行われることで職場環境が不快なものとなり、労働者が苦痛を感じて、能力の発揮に重大な悪影響が生じるケースです,。

具体例: 事務所内で性的な冗談を繰り返す、不必要に身体に触れる、性的な画像やポスターを掲示するといった行為により、他の労働者が仕事に集中できなくなる状態が該当します,。

※ セクハラは、異性間だけでなく同性間でも成立し、相手の性的指向や性自認にかかわらず該当し得ます,。

グレーゾーン事例の解説

実際の現場で「白黒」を判定するための判断基準の一つとして、具体的なケース別に事例を解説します。

ケースA:業務上の指導・叱責(パワハラかどうかの境界線)

  • 該当しにくい例(白): ミスの原因を明らかにし、再発防止を講じるために行われる冷静な指示。相手の《人格》を傷つける行為でなければ、厳しい叱責であっても適正な範囲と判断される傾向にあります。
  • 該当する可能性が高い例(黒): 「バカ」「給料泥棒」など、人格を否定する暴言を伴うもの。指導が目的であっても、手段が不当であればパワハラと認定される可能性があります。

ケースB:同僚間のトラブル

  • 該当しにくい例: 職務上の地位や専門知識などの「優越的な関係」が一切認められない、対等な同僚同士の喧嘩。
  • 該当する可能性が高い例: 形式的なパワハラ定義(3要件)に完全に当てはまらなくても、会社がトラブルを認識しながら放置し、職場環境が悪化した場合は、「安全配慮義務違反」として会社が責任を問われる事例もあります。

ケースC:性的な言動(セクハラ)

  • 該当しにくい例: 社会通念上、相当な範囲に留まる一般的な社交辞令や、業務上必要なコミュニケーション。ただし、相手の意に反していないことが前提となります。
  • 該当する可能性が高い例: 相手が拒絶しているにもかかわらず性的な冗談を繰り返す(環境型)、あるいは交際を断ったことで不当な配転を命じる(対価型)などの行為。

【罰則と責任】ハラスメント対策を怠ることで生じる3つの重大リスク

ハラスメントが発生した際、または防止措置を怠った際に問われる責任は大きく3つに分類されます。

立場行政リスク民事リスク(賠償)刑事リスク
会社側指導・勧告・企業名公表・過料使用者責任・安全配慮義務違反による高額賠償原則なし(法人への罰則規定は現時点でない)
加害者側なし不法行為責任(個人での賠償)暴行・名誉毀損等の各罪
被害者側なし(行政に救済を求めることは可能)賠償請求権の発生告訴権の行使

① 行政上の責任(行政指導・企業名公表)

主に企業(事業主)が負う責任です。厚生労働大臣が必要と認めた場合、事業主に対して助言、指導、勧告が行われます。

事業主が勧告に従わなかった場合、企業名が公表されます。これは社会的信用の失墜を招き、採用や取引に甚大な悪影響を及ぼす実質的な罰則となります。

男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に基づき、行政からの報告に虚偽の回答をしたり、報告を怠ったりした場合には20万円以下の過料が科されます。

② 民事上の責任(損害賠償)

ハラスメントは被害者の人格を傷つける「不法行為(民法709条)」であり、裁判になれば多額の賠償金が発生します。ここでのポイントは、加害者個人だけでなく会社も連帯して責任を負うという点です。

会社側が責任を負う理由は、使用者責任(民法715条)に当たるためです。従業員が業務中にハラスメントを行ったことに対し、雇用主としての賠償責任を負います。

また、会社には労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。ハラスメントが発生し、適切な対応を怠った場合、この義務に違反した「債務不履行(民法415条)」とみなされます。

③ 刑事上の責任(刑事罰)

主に加害者個人が負う責任です。言動の激しさや内容により、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪などに問われる可能性があります。法規制が強化されるなかで、裁判所の判断もより厳しくなる傾向にあります。

企業が最も警戒すべき「相談放置」という義務違反

相談窓口の設置だけでなく、窓口が実際に機能しているかの確認も重要です。裁判の多くは、ハラスメント行為そのものよりも、「相談したのに会社が動いてくれなかった」という初動の不備が原因で会社に責任が問われています。

相談を受けた際、「様子を見てほしい」と先送りにしたり、我慢を強いたりすることは、それ自体が安全配慮義務違反として問われる可能性があります。

会社が対応を怠った結果、被害者に深刻な心身の被害が生じた場合、賠償額が数千万円にのぼるケースもあります。

会社が責任を果たすためには、「相談の受付」「迅速な調査」「結果に基づく適正な措置」の3つをセットで行う必要があります。

ハラスメント対策はいつから義務化?法改正の年表と対応期限

ハラスメント対策は、すでに多くの企業で法律上の義務となっています。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は2022年4月から中小企業にも全面適用されています。

ここでは、法改正の年表とともに対応が必要な項目を解説します。

ハラスメント対策・法改正年表

施行日法律名(通称)改正・施行内容
2020年6月1日労働施策総合推進法(パワハラ防止法)大企業に対してパワーハラスメント防止措置を義務化。
男女雇用機会均等法・育児・介護休業法セクハラ・マタハラ・育介ハラ対策の強化(全企業対象)。
2022年4月1日労働施策総合推進法(パワハラ防止法)中小企業に対してもパワーハラスメント防止措置を義務化(全面施行)。
2026年10月1日(予定)改正労働施策総合推進法等カスタマーハラスメント(カスハラ)求職者等に対するセクハラ防止措置を義務化。

2026年から義務化されるカスタマーハラスメント対策

2026年10月施行予定の法改正により、企業にはカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化される予定です。暴言・威圧・長時間拘束など顧客からの著しい迷惑行為に対し、企業は従業員を守る体制整備が求められます。

具体的には、

  • 対応方針の明文化
  • 相談窓口の設置
  • 対応マニュアル整備
  • 従業員研修
  • 悪質顧客への対応基準策定
  • 記録・証拠保存体制の整備

などが必要になる見込みです。

対策を怠った場合は、行政指導や企業名公表のリスクも想定されており、特に小売・医療・介護・コールセンターなど顧客対応の多い業界では早期対応が重要になります。

今後は「顧客だから仕方ない」ではなく、従業員保護を前提とした組織づくりが企業責任として求められる時代へ変化しています。

企業規模別の対応期限チェックリスト

以下の項目は、現在すでに法律で義務付けられており、未対応であれば早急な整備が必要です。

  • パワーハラスメント防止措置: 2022年4月より、中小企業も義務化対象となっています。
  • セクシュアルハラスメント防止措置: 業種・規模を問わず、すべての事業主に義務付けられています。
  • マタニティ・ケアハラスメント防止措置: 妊娠・出産、育児・介護休業等に関する嫌がらせの防止措置もすべての企業で義務です。
  • 不利益取扱いの禁止: ハラスメントの相談や休業の取得を理由とした解雇などの不利益な取扱いを禁止し、周知していますか。

2026年10月1日までに全企業が対応すべき項目

新たな法改正により、以下の措置が全企業の義務となります。

  • カスタマーハラスメント(カスハラ)対策: 顧客等からの著しい迷惑行為から従業員を守るための体制整備。
  • 求職者等に対するセクハラ防止措置: 自社の従業員だけでなく、採用選考中の学生やインターンシップ生に対するセクハラ防止策の整備。

法改正で義務化された「4つの雇用管理上の措置」

企業には、ハラスメントを防止するための体制整備が法律上義務付けられています。ここでは実務担当者が迅速に動けるよう、事業主が最低限整備すべき措置をチェックリスト形式でまとめました。

  • □ハラスメント禁止の方針を明文化する。
  • □就業規則に懲戒規定を設け、周知する。
  • □相談窓口を設置し、従業員に知らせる。
  • □窓口担当者が適切に対応できるよう教育する。
  • □事案発生時、迅速に正確な事実関係を確認する。
  • □被害者への配慮と、加害者への適正な措置(懲戒等)を行う。
  • □プライバシー保護を徹底し、周知する。
  • □相談等を理由とした不利益な取扱いを禁止する。

ハラスメント対策を整備することで、経営上の重大なリスクを回避できます。

ハラスメントの法律に関するよくある質問

Q. ハラスメントは法律違反になりますか?

行為内容によっては、民法上の不法行為、労働法違反、刑法違反に該当します。企業側も安全配慮義務違反や使用者責任を問われる可能性があります。

Q. ハラスメント防止法は中小企業も対象ですか?

2022年4月から、中小企業にもパワハラ防止措置が義務化されています。企業規模を問わず、相談窓口設置や就業規則整備などの対応が必要です。

Q. パワハラに罰則はありますか?

直接的な刑事罰は限定的ですが、企業名公表・損害賠償・刑法適用リスクがあります。悪質な場合は暴行罪や脅迫罪などが適用される可能性もあります。

まとめ|ハラスメント対策は企業を守る“法的義務”

ハラスメント対策は、単なる社内マナーではなく、企業に法律上求められる重要な義務です。現在はパワハラ・セクハラ・マタハラ・育介ハラへの防止措置が義務化されており、2026年10月からはカスタマーハラスメント対策も義務化される予定です。

企業には、相談窓口の整備、就業規則への明記、迅速な調査・再発防止対応などが求められ、対応を怠った場合は行政指導・企業名公表・損害賠償責任に発展する事例も少なくありません。

ハラスメント問題は、発生そのものより「初動対応の失敗」で企業責任が拡大するケースが少なくありません。特に、相談窓口の未整備や調査遅延は、安全配慮義務違反として高額賠償へ発展するリスクがあります。

「自社の対応で十分なのか確認したい」「カスハラ義務化に向けて準備を進めたい」「就業規則や相談窓口を整備したい」といった場合は、早めに専門家へ相談することが重要です。

詳しくは、公式サイトをご確認ください。

【参照元】

職場におけるハラスメントの防止のために

ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置

雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために

押さえておきたい「ハラスメントに関する法律」のポイント ~法規制の内容と実務対応~