新しいスキルを身につけたい一方で、費用と時間がネックになり、学び直しをためらう方は少なくありません。特に働きながら通う学習は出費がかさみやすく、家計との両立が難しくなることがあります。
こうした負担を軽くする選択肢として、経済産業省のリスキリング支援制度(正式名称:リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業)が注目されています。これは受講費の補助とキャリア相談・転職支援をセットで受けられる、公的な「学び直し」の支援策です。
本記事では、経済産業省のリスキリング支援制度の概要から対象講座、申請の流れ、補助金の受け取り方などを詳しく解説します。
経済産業省のリスキリング講座とは|制度の概要

経済産業省は、在職者が新しいスキルを身につけて転職やキャリアアップを目指せるよう、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を実施しています。
リスキリングとは、AI・DXなどの技術進化に対応するため、仕事を続けながら新しいスキルを学び直すことです。一度仕事を離れて学ぶ「リカレント教育」とは異なり、働きながらオンライン講座などで学習を進められます。
本制度では、キャリア相談・講座受講・転職支援を一体で受けられ、条件を満たすと受講費用の負担が軽減されます。
経済産業省のリスキリング講座|申請から受講までの流れ

経済産業省のリスキリング制度を利用するには、補助事業者への登録からスタートします。申請から補助金受給までの流れを確認しておきましょう。
申請から補助金受給までのステップ
| ステップ | 内容 | 目安期間 |
| 1. 補助事業者に登録 | Webサイトから会員登録・本人確認 | 1〜2週間 |
| 2. キャリア相談 | キャリアコンサルタントと面談(無料) | 1〜2回 |
| 3. 講座申込 | 対象講座を選んで申込 | 即日〜1週間 |
| 4. 受講・修了 | 講座を受講し修了要件を満たす | 3か月〜1年 |
| 5. 50%補助支給 | 講座修了後に支給 | 修了後1〜2か月 |
| 6. 転職活動(任意) | 補助事業者の転職支援を利用 | 3〜6か月 |
| 7. 追加20%支給(任意) | 転職後1年間勤務継続で支給 | 転職後1年 |
ステップ1:補助事業者に登録する
経済産業省から認定を受けた「補助事業者」のWebサイトで会員登録を行います。補助事業者は複数あり、提供している講座や転職支援の内容が異なります。登録前に各事業者のサイトを比較し、学びたい分野の講座があるか確認しておきましょう。
ステップ2:キャリア相談を受ける
キャリアコンサルタントとの面談を受けます。この相談は無料で、今後のキャリアプランや学ぶべきスキルを整理できます。どの講座を選べばいいかわからない方も、相談を通じて自分に合った講座を見つけられます。
ステップ3:講座に申し込む
受講したい講座が決まったら申し込みします。受講費用は一旦全額自己負担で支払い、講座修了後に受講費用の50%(上限40万円)が補助されます。人気の講座は定員に達することもあるため、早めの申し込みがおすすめです。
ステップ4:講座を受講・修了する
講座の受講期間は3か月〜1年程度のものが多いです。オンライン完結型が中心で、仕事を続けながら自分のペースで学習を進められます。修了要件は講座ごとに異なり、課題提出や修了テストの合格などが一般的です。
ステップ5:50%補助を受け取る
講座を修了すると、受講費用の50%(上限40万円)が補助されます。これについては、転職するかどうかに関係なく受け取れるのがポイントです。通常、修了から1〜2か月程度で支給されます。
ステップ6・7:転職活動と追加20%補助(任意)
補助事業者の転職支援を利用すれば、転職先の紹介や書類添削、面接対策といったサポートを受けられます。補助事業者経由で転職し、1年間勤務を継続した場合は追加で20%(上限16万円)が補助されます。転職は必須ではないので、50%補助だけ受け取っても問題ありません。
経済産業省のリスキリング講座|認定講座一覧と学べる分野

経済産業省が認定するリスキリング講座は約500講座あり、DX・AI、IT、マーケティング、ビジネススキルなど幅広い分野をカバーしています。ここでは、各分野における主な認定講座と学べる内容をご説明します。
DX・AI・データ分析分野
【主な講座例】
- Python
- 機械学習
- 生成AI
- データ分析
- プロンプトエンジニアリング
受講期間目安:3〜6か月
DX・AI・データ分析は、業務改善や意思決定に直結しやすい分野です。Pythonの基礎から、ChatGPTやGeminiを使った業務効率化、データに基づく意思決定の支援まで、段階的に学べる講座がそろっています。
未経験者は「いきなりプログラミングは難しそう」と感じやすいところです。ただ、多くの講座は初学者向けに進み方が組まれており、基礎の理解から実務イメージまでをつなげて学べます。Excelで集計や関数を使った経験があるなら、データを扱う感覚を活かしやすいでしょう。
また、生成AIやプロンプトエンジニアリングは、事務職・企画職でも取り入れやすいテーマです。資料作成の下書き、定型レポートの作成補助、情報整理などに応用でき、学んだ内容を業務に戻しやすい点がメリットといえます。いずれもオンライン完結型が多く、働きながら続けられるのが嬉しいところです。
IT・プログラミング分野
主な講座例
- Web開発
- Java
- AWS
- サイバーセキュリティ
- クラウドエンジニア
受講期間目安:3か月〜1年
IT・プログラミング分野は、開発やインフラの基礎から応用までを、実習を通して学べる講座がそろっています。たとえば、Web開発やJavaの講座では、コードを書きながらアプリケーションを形にする課題が用意されており、学んだ内容を手順として定着させやすいのが特徴です。
クラウド領域では、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureなどの環境を扱い、資格取得も視野に入れた講座が用意されています。企業システムのクラウド移行が進む中で、こうしたスキルを特に評価されます。
そしてサイバーセキュリティの講座では、攻撃手法の基礎や対策の考え方、社内運用のポイントなどを学べます。専門性が求められる一方で、学習ロードマップが整理された講座も多く、実務未経験からでも段階的に取り組みやすい分野です。
デジタルマーケティング分野
主な講座例
- SEO
- SNS運用
- Web広告
- Googleアナリティクス
受講期間目安:2〜4か月
デジタルマーケティング分野では、集客から効果測定までを一連の流れで学べます。SEO(検索エンジン最適化)やSNS運用、Web広告の運用では、施策の立て方と改善の進め方を押さえられます。GoogleアナリティクスやGoogle広告を扱う講座は、ツール操作を通して数値の見方を身につけやすい点が特徴です。
SNSマーケティングの講座では、InstagramやX(旧Twitter)を例に、投稿設計や運用ルール、広告配信の調整までを体系的に学びます。自社アカウントの運用はもちろん、社内の施策を手伝う立場になっても役立つでしょう。
多くが2〜4か月程度で修了できるため、短期で全体像をつかみたい方に向いています。学んだ内容をすぐ施策に反映し、数字で振り返れる点もポイントです。
ビジネススキル・資格取得分野
主な講座例
- PMP
- 簿記
- 宅建
- キャリアコンサルタント
受講期間目安:3〜6か月
実務で使うビジネススキルを整理しつつ、資格取得まで見据えて学べる講座が中心です。たとえば、PMP(Project Management Professional)対策の講座では、プロジェクトの立ち上げから計画、実行、管理までの考え方を学び、チーム運営や進捗管理の基礎を固められます。管理職やプロジェクトリーダーを目指す方は、学習内容を日々の仕事に置き換えやすいでしょう。
簿記や宅建は、専門知識を体系立てて身につけたい方におすすめの資格です。取得できれば、担当業務の幅を広げる材料になり、転職・独立時の大きな強みになります。
プログラミング中心の講座と比べると、学習の前提となるIT知識が少なく、取り組みやすいと感じる方もいるようです。
経済産業省のリスキリング講座|補助金の仕組みと受け取り方

経済産業省のリスキリング補助金は、受講費用に対して最大70%(上限56万円)が補助される制度です。支給は2段階で、講座修了で50%を受け取り、転職後に条件を満たすと残りの20%が追加で支給されます。
以下、補助金の仕組みと受け取り方をもう少し深掘りします。
補助金額の内訳と上限
| タイミング | 補助率 | 上限額 | 条件 |
| 講座修了時 | 受講費用の50% | 40万円 | 講座を修了すること |
| 転職後 | 受講費用の20% | 16万円 | 補助事業者経由で転職し、1年間継続勤務 |
| 合計 | 最大70% | 56万円 | 上記両方の条件を満たすこと |
補助金は、講座修了時と転職後の2段階で支給されます。まず講座を修了すると、受講費用の50%(上限40万円)が補助されます。次に、補助事業者経由で転職し、1年間勤務を継続したときは、追加で20%(上限16万円)が補助されます。
たとえば、受講費用80万円の講座を修了し、転職後に1年間勤務を継続すると、80万円の70%にあたる56万円が補助対象になります。その結果、自己負担は24万円になります。
転職しなくても50%補助は受け取れる
| 項目 | 経済産業省 | 厚生労働省 |
| 制度名 | リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | 教育訓練給付金(専門実践) |
| 転職要件 | 転職意思が前提(転職しなくても50%受給可) | 転職不要 |
| 補助率 | 最大70%(上限56万円) | 最大80%(年間上限あり) |
| 雇用保険要件 | なし | あり(初回1年以上、2回目以降3年以上) |
| 申請先 | 補助事業者経由 | ハローワーク |
| 利用回数 | 原則1人1回まで | 生涯3回まで |
経済産業省の制度は転職を前提に設計されています。ただ、講座を修了すれば、転職の有無にかかわらず受講費用の50%(上限40万円)が補助されます。転職後の追加20%(上限16万円)を受けるには、補助事業者経由で転職し、1年間勤務を継続することが条件です。
一方で、転職を前提にせず給付を受けたいときは、厚生労働省の教育訓練給付金(専門実践)も比較対象になります。雇用保険の要件や申請先が異なるため、自分の状況に合う制度を探してみましょう。
補助対象外となる費用
| 費用項目 | 補助可否 |
| 受講費用 | ○ 補助対象 |
| 入会金・登録料 | × 補助対象外 |
| 教材費 | △ 講座により一部対象外 |
| PC・機材購入費 | × 補助対象外 |
| 通信費 | × 補助対象外 |
| 交通費・宿泊費 | × 補助対象外 |
| 受験料 | × 補助対象外 |
補助の対象は受講費用で、入会金・登録料や機材購入などは対象外です。具体的には、PC・機材購入費、通信費、交通費・宿泊費、資格試験の受験料は補助されません。
また、教材費だけは扱いが分かれます。受講費用に教材費が含まれているときは、補助対象になり得ますが、別途購入が必要な教材は対象外です。自己負担を把握するため、受講費とあわせて「教材が含まれるか」を漏れなく確認してください。
経済産業省のリスキリング講座|よくある質問

経済産業省のリスキリングはいつまで利用できますか?
本事業は、個人への支援(キャリア相談・リスキリング提供・転職支援)の終期が令和8年度末までに延長されています。具体的な受講期限や申込期限は公募回・補助事業者ごとに異なるため、最新の公募要領と公式サイトで確認が必要です。予算に達した場合は早期終了となる可能性もあります。
転職は必須ですか?
転職しなくても50%補助(上限40万円)は受けられます。追加20%を受けるには、補助事業者経由での転職と1年間の勤務継続が必要です。
公務員・個人事業主は利用できますか?
公務員(常勤・非常勤)と個人事業主・フリーランスは対象外です。雇用契約を結んでいる在職者のみが対象となります。
補助金を受ける条件は?
雇用契約があること、転職を目指していること、補助事業者経由で申し込むことが条件です。雇用保険の加入期間要件はありません。
何回まで利用できますか?
原則1人1回までです。厚生労働省の教育訓練給付金(生涯3回まで)とは異なります。
まとめ|経済産業省のリスキリング講座で可能性を広げる
経済産業省のリスキリング講座は、雇用契約のある在職者を対象とした支援制度です。雇用保険の加入期間要件はなく、転職支援と講座受講をセットで利用できます。ただし、公務員や個人事業主・フリーランスは対象外です。
補助は最大70%(上限56万円)で、講座修了時に50%、転職後に1年間の継続勤務を満たすと追加で20%が支給されます。実施は2028年度末までの予定で、利用は原則1人1回までです。
なお、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の六次公募は、令和7年9月16日(正午)をもって公募を終了しました。七次公募の実施は未定のため、気になる方は経済産業省の公式サイトで最新情報を確認してください。
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