リスキリング支援について調べ始めると、経済産業省や厚生労働省の制度が複数あり、どれを選べばいいか迷う方も多いはずです。
支援額は制度によって大きく変わります。上限が最大56万円と決まっている制度がある一方で、受講費用の80%が支給される制度もあります。このため、金額だけで判断せず、対象者の条件や支給のタイミングまで確認したうえで、自分に合う制度を選ぶことが大切です。
本記事では、個人で利用できる主要な支援制度を比較し、雇用形態・状況別に使える制度をご紹介します。「自分はどの制度を使えるのか?」がつかめるように、要点をわかりやすくまとめました。
リスキリング支援とは?政府が推進する背景

AI(人工知能)・DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、働き方が大きく変わりつつあります。その変化に対応するため、政府が力を入れているのが「リスキリング支援」です。
まずは、リスキリング支援の基礎知識をおさらいします。
リスキリング支援の定義
経済産業省はリスキリングについて、「新しい職業に就くため」または「今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するため」に、必要なスキルを獲得することだと定義しています。
この考え方を前提に、学び直しを国が後押しする仕組みがリスキリング支援です。経済産業省や厚生労働省が受講費用の一部を助成金・給付金で補うため、自己負担を抑えて学びを進められます。
出典:経済産業省「リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
政府がリスキリングを推進する理由
政府がリスキリングを推進する背景には、AI・DXの急速な進展があります。業務の進め方が変わり、いま必要とされるスキルも更新されるため、従来の知識だけでは追いつきにくい場面が増えました。
この流れを受けて政府は、リスキリングを「人への投資」と位置づけ、5年間で1兆円規模の予算を確保しています。受講費用の一部を支援する仕組みがあるため、費用負担を抑えながら学び直しに取り組めます。
リスキリング支援で使える助成金・給付金

リスキリング支援として、経済産業省と厚生労働省がそれぞれ異なる制度を用意しています。代表的な助成金・給付金をいくつか比較してみましょう。
経済産業省のリスキリング支援事業
| 項目 | 内容 |
| 管轄 | 経済産業省 |
| 対象者 | 在職者(雇用契約あり) |
| 補助率 | 最大70%(50%+20%) |
| 上限額 | 56万円 |
| 転職要件 | 転職なしでも50%支給 |
経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、雇用契約を締結している在職者を対象にした制度です。上限は合計56万円、受講費用の最大70%が支給されます。
本制度の特徴は、正社員だけでなく契約社員や派遣社員も利用できる点です。支給は2段階に分かれており、講座修了時に50%(上限40万円)、転職成功時に追加で20%(上限16万円)を受け取れます。
修了時の50%は転職しなくても支給されるため、まずはスキルアップだけを目的に活用できる制度です。
厚生労働省の教育訓練給付金
| 項目 | 内容 |
| 管轄 | 厚生労働省 |
| 対象者 | 雇用保険加入者 |
| 補助率 | 20〜80%(講座種類による) |
| 上限額 | 年10〜64万円 |
| 転職要件 | 不要 |
教育訓練給付金は、雇用保険加入者を対象に受講費用の一部を支給する制度です。講座の種類によって給付率が異なります。
一般教育訓練は20%(上限10万円)、特定一般教育訓練は40〜50%(上限20〜25万円)、専門実践教育訓練は最大80%(年間上限64万円)です。なお、雇用保険の加入期間は初回利用で1年以上(当分の間の特例)、2回目以降は前回受給日から3年以上が必要です。
厚生労働省の人材開発支援助成金
| 項目 | 内容 |
| 管轄 | 厚生労働省 |
| 対象者 | 企業経由(従業員向け) |
| 補助率 | 45〜70%(雇用形態による) |
| 上限額 | コースごとに年間上限額が設定(例:一部コースで年間1,000万円 など) |
| 転職要件 | 不要 |
企業が従業員向けに訓練を実施する際に使える助成金です。個人が直接申請する仕組みではないため、利用したいときは勤務先に制度活用を相談する形となります。
たとえば、中小企業では有期契約労働者は訓練費用の70%、正社員は45%が経費助成として支給されます。年間上限は1,000万円で、さらに賃金助成として800円/時間(賃上げ要件を満たすと1,000円/時間)も受けられます。会社が制度を活用できれば、受講者の負担を抑えた形で訓練を受けやすくなるでしょう。
【雇用形態・状況別】リスキリング支援の対象者
| 雇用形態・状況 | 経産省キャリアアップ支援事業 | 教育訓練給付金 | 人材開発支援助成金 |
| 正社員 | ○ | ○ | ○(企業経由) |
| 契約社員・派遣社員 | ○ | ○(※1) | ○(企業経由) |
| パート・アルバイト | ○ | ○(※1) | ○(企業経由) |
| 公務員 | × | × | × |
| フリーランス・個人事業主 | × | × | × |
| 退職後(離職後1年以内) | × | ○(※2) | × |
| 育休中 | ○ | ○(※3) | ○(企業経由) |
※1:雇用保険への加入が条件
※2:離職後1年以内が原則。延長制度あり
※3:雇用保険の被保険者資格を保持している場合
利用できる制度は、雇用形態や就業状況によって異なります。ここでは、雇用形態・状況別に対象となる制度を解説します。
正社員の方
正社員は、もっとも多くの制度を利用できる立場です。経済産業省のリスキリング支援事業、厚生労働省の教育訓練給付金、人材開発支援助成金(企業経由)、自治体の独自制度のいずれも対象となります。費用や目的に応じて、最適な制度を選べるでしょう。
契約社員・派遣社員の方
契約社員や派遣社員も、正社員と同様に経産省のキャリアアップ支援事業を利用できます。教育訓練給付金については、雇用保険への加入が条件となるため、事前に加入状況を確認しておきましょう。
加入期間の要件は、利用する給付金の種類によって異なります。一般教育訓練・特定一般教育訓練は初回1年以上、専門実践教育訓練は初回2年以上の加入期間が必要です。2回目以降は、いずれも前回の受給日から3年以上の期間が求められます。
公務員の方

公務員は、国の支援制度では原則として対象外です。教育訓練給付金は雇用保険加入者が対象ですが、公務員は雇用保険に加入していません。経産省のキャリアアップ支援事業も「雇用契約を締結している在職者」が要件のため、利用できない形となっています。
ただし、所属する省庁や自治体が独自に研修制度を設けているケースもあります。人事担当部署に確認してみるといいかもしれません。
フリーランス・個人事業主の方
フリーランスや個人事業主は、経済産業省のリスキリング支援事業の対象外です。同事業は「雇用主と雇用契約を締結している在職者」を対象としており、経営者やフリーランスは含まれません。
厚生労働省の教育訓練給付金も雇用保険加入者が対象のため利用できませんが、自治体独自の支援制度にはフリーランス向けのものもあります。産業労働局や商工会議所に確認してみるといいでしょう。
退職後(離職後)の方
教育訓練給付金は、離職後1年以内であれば利用できます。一方で、経済産業省のリスキリング支援事業は在職者向けの制度のため、離職後は対象外となります。
なお、妊娠・出産・育児・疾病などの理由で30日以上受講を開始できない期間がある場合は、ハローワークで手続きをおこなうことで適用対象期間を最大20年まで延長できます。
育休中の方
育休中でも、雇用保険の被保険者資格を保持していれば教育訓練給付金を利用できます。経産省のキャリアアップ支援事業も、雇用契約が継続していれば在職者として申請可能です。
育児を理由に30日以上受講できない期間がある場合は、ハローワークで適用対象期間の延長手続きができます。オンラインで受講できる講座も増えているため、育児と両立しやすいコースを選ぶのがおすすめです。
キャリア形成・リスキリング支援センターの活用

制度選びや申請手続きに迷うときは、キャリア形成・リスキリング支援センターに相談する方法があります。これは全国47都道府県に設置されている無料の窓口で、制度の選び方や手続きの進め方について支援を受けられます。
ここでは、キャリア形成・リスキリング支援センターの特徴やサービス、利用方法をご紹介します。
キャリア形成・リスキリング支援センターとは
キャリア形成・リスキリング支援センターは、制度選びや学び直しの進め方を無料で相談できる窓口です。厚生労働省の委託事業として全国47都道府県に設置されており、キャリアコンサルタントが相談に乗ってくれます。
相談できる内容は幅広く、制度の選び方から講座の探し方、申請手続きまで一貫したサポートが受けられます。
「どの制度を使えばいいか分からない」「自分に合った講座を探したい」「申請方法が複雑で不安」といった悩みも整理しながら進められるでしょう。オンラインと対面の両方に対応し、相談は何度でも無料のため、仕事が忙しい方でも頼りになる窓口です。
無料で受けられるサービス
同センターでは、キャリア支援に関するサービスを無料で受けられます。相談窓口で提供される主なサービスは、次の5つです。
- キャリアコンサルティング(面談)
- ジョブ・カード作成支援
- リスキリング講座の紹介
- 助成金・給付金の相談
- キャリアセミナー(定期開催)
まず使いたいのは、キャリアコンサルティングでしょう。国家資格を持つキャリアコンサルタントが1対1で対応し、状況整理から学びの優先順位づけまで伴走してくれます。さらにジョブ・カード作成支援では、職務経歴やスキルを棚卸しできるため、受講すべき分野の見当を付けやすくなります。
相談を起点に必要な支援を使っていけば、本来の目的である学び直しに集中できるでしょう。
利用方法と予約の流れ
キャリア形成・リスキリング支援センターは、予約から相談まで目安として1〜2週間程度で利用できます。初回相談は60分程度が目安ですが、詳細は最寄りのセンターにご確認ください。利用の流れは次のとおりです。
- 公式サイトで最寄りのセンターを検索
- 電話またはWebで予約
- キャリアコンサルタントと面談(対面またはオンライン)
- 適切な制度・講座の紹介を受ける
予約時に相談内容を簡単に伝えておくと、面談がスムーズに進みます。「どの制度が使えるか知りたい」「キャリアの方向性を相談したい」など、大まかな目的を伝えておくといいでしょう。
リスキリング支援に関するよくある質問

リスキリング支援に関してよく寄せられる質問をまとめました。制度選択の参考にしてください。
リスキリングの支援制度は転職しなくても使えますか?
リスキリングの支援制度は、転職しなくても使えるものがあります。たとえば、厚生労働省の教育訓練給付金は、転職の予定がなくても利用できます。
一方で、経済産業省のリスキリング支援事業は給付が段階制です。講座修了時は50%(上限40万円)が転職不要で支給されますが、最大56万円まで受け取るには修了後の転職と1年以上の継続就業が条件になります。
リスキリングの支援金は最大でいくらもらえますか?
厚生労働省の教育訓練給付金は、講座の種類によって給付率が異なります。一般教育訓練は20%(上限10万円)、特定一般教育訓練は40〜50%(上限20〜25万円)、専門実践教育訓練は最大80%(年間上限64万円)です。経済産業省のリスキリング支援事業は最大56万円(転職した場合)となっています。
どんなコースが対象になりますか?
教育訓練給付金の対象講座は約17,000講座あります(2025年10月現在)。DX、AI、プログラミング、語学、簿記、ITパスポートなど幅広い分野をカバーしており、自分の目的に合わせて選べるでしょう。
育休中でも学び直しの支援は使えますか?
使えます。育休中に雇用保険の被保険者資格を保持していれば、教育訓練給付金を利用できます。育児を理由に受講できない期間がある場合は、ハローワークで適用対象期間の延長手続きも可能です。
フリーランスが使える助成金はありますか?
経済産業省のリスキリング支援事業は「雇用契約を締結している在職者」が対象のため、フリーランスや個人事業主は対象外です。厚生労働省の教育訓練給付金も雇用保険加入者が対象のため利用できません。自治体独自の支援制度を確認してみてください。
まとめ|リスキリング支援で学び直しを始めよう
国のリスキリング支援を活用すれば、学び直しにかかる費用負担を抑えながらスキルアップを目指せます。ただし、制度ごとに対象者の条件や支給のタイミングが異なります。まずは自分が利用できる制度を整理しておきましょう。
制度選びや申請手続きに不安が残るときは、キャリア形成・リスキリング支援センターの無料相談を活用してください。状況に合わせた制度の選び方や手続きの進め方を確認できるため、途中で迷いやすい点を早めに解消できます。
利用できる制度が見えてきたら、興味のある分野の講座から無理のない範囲で受講を始めましょう。小さく始めて学びを継続できれば、支援制度はキャリアの選択肢を広げる後押しになります。
リスキリングに関して、詳しくはほかのコラムページもご確認ください。