人材育成やリスキリングの必要性を感じていても、研修費用や人件費の負担が気になり、なかなか取り組みに踏み出せない企業は少なくありません。

本記事では、人材開発支援助成金 人材育成支援コースが、どのような制度なのか解説します。また、対象となる条件や計画届、申請手続きの流れ、失敗を防ぐためのポイントまでご紹介します。

自社にとって活用できる制度かどうかを判断するための、参考としてご活用ください。

人材開発支援助成金「人材育成支援コース」とは?

人材開発支援助成金 人材育成支援コースとは、企業が従業員に対して業務に必要な知識や技能を習得させる職業訓練を行った場合に、訓練費用や賃金の一部について助成を受けられる制度です。

あらかじめ作成した計画に基づいて訓練を実施することが、支給を受けるための前提となっています。厚生労働省が所管する雇用関係助成金の一つで、企業の人材育成への取り組みを後押しする目的で設けられています。

制度の内容を具体的に理解するために、まず人材開発支援助成金「人材育成支援コース」の特徴を解説します。

人材開発支援助成金「人材育成支援コース」の特徴

人材育成支援コースの特徴は、上述したように計画を立てたうえで訓練を実施することが前提です。単発の研修ではなく、計画性のある人材育成が求められています。

具体的には、次のような特徴があります。

  • 事業主が雇用する労働者に対して行う職業訓練が対象
  • 職場外で行う研修(OFF-JT)、職場内で行う訓練(OJT)が対象
  • 訓練にかかる経費だけでなく、訓練期間中の賃金も助成対象となる場合がある

人材育成を中長期的に考える企業に向いた制度である点が特徴です。

人材開発支援助成金「人材育成支援コース」の目的

人材育成支援コースが設けられている背景には、企業が人材育成に十分な時間やコストをかけにくい現状があります。制度の目的は、企業による計画的な職業訓練を支援し、労働者の能力向上と安定した雇用の確保を図ることです。

厚生労働省は、人材育成を企業の競争力向上につながる重要な取り組みと位置づけています。そのため、訓練を実施する企業の負担を軽減し、継続的な教育訓練が行われやすい環境を整える狙いがあります。

他制度と比較した特徴

人材開発支援助成金には複数のコースがありますが、人材育成支援コースは基本的な位置づけのコースとされています。

他のコースと比較した特徴は、以下のとおりです。

比較項目人材育成支援コース他の主なコース例
対象となる訓練内容特定分野に限定されず、幅広い職務関連訓練が対象デジタル分野や新規事業対応など、分野が限定される場合がある
制度の位置づけ基本的なコースとして利用しやすい特定の目的に特化した応用的なコース
要件の分かりやすさ要件が比較的シンプル要件が細かく設定されている場合がある
利用のしやすさ初めて人材開発支援助成金を利用する企業でも取り組みやすい制度理解や準備に時間がかかる場合がある

人材育成支援コースは、助成金制度を活用した人材育成を検討する際の第一歩として選ばれやすいコースといえます。

引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金

対象となる条件をわかりやすく解説

人材開発支援助成金 人材育成支援コースを利用するためには、事業主・労働者・訓練内容それぞれについて、一定の条件を満たしている必要があります。

制度を検討する際に確認しておきたいポイントを解説します。

対象となる事業主の条件

まず、助成金を申請できるのは、一定の要件を満たした事業主に限られます。

基本となる条件は、次のとおりです。

  • 日本国内に事業所を有している事業主である
  • 雇用保険の適用事業所である
  • 労働者に対して職業訓練を行う計画を事前に提出している

人材開発支援助成金は、計画届を提出した後に実施した訓練のみが対象となります。そのため、訓練を先に実施してから申請することはできません。

また、提出した計画と実際の訓練内容が大きく異なる場合には、支給対象外となる可能性があります。計画段階から、実施内容を具体的に想定しておくことが重要です。

対象となる労働者・研修内容の条件

助成対象となる労働者や研修内容にも条件があります。制度の趣旨に沿った訓練であるか「人材開発支援助成金「人材育成支援コース」の特徴どうかが、重要な判断基準となります。

主なポイントは、次のとおりです。

  • 助成対象となるのは、雇用保険の被保険者として雇用されている労働者
  • 訓練内容は、業務に必要な知識や技能の習得を目的としたものに限られる
  • 職場外研修(OFF-JT)や職場内訓練(OJT)が対象になります

業務との関連性が薄い内容や、趣味・教養を目的とした講座は助成対象になりません。研修内容が「現在の業務」または「今後予定している業務」にどう結びつくかを、明確に説明できることが求められます。

支給対象外となりやすいケース

条件を満たしているつもりでも、実務上の対応によって支給対象外となるケースがあります。

特に注意したい具体例は、次のとおりです。

  • 計画届を提出する前に訓練を開始してしまった場合
  • 訓練内容が職務と直接関係しないと判断された場合
  • 計画届に記載した内容と、実際の訓練内容が大きく異なる場合

上記のケースでは、訓練自体を実施していても助成金は支給されません。そのため、事前準備と内容確認を丁寧に行うことが、失敗を防ぐための重要なポイントです。

計画届の作成方法と様式の基本

人材開発支援助成金 人材育成支援コースを利用する場合、最初に行う重要な手続きが「計画届」の提出です。計画届は、どのような職業訓練を、誰に、いつ実施するのかを事前に示すための書類であり、助成金の支給可否を左右する重要な役割を持っています。

計画届の作成方法と様式の基本を解説します。

計画届が必要な理由

計画届は助成金を受けるための前提条件となる書類です。訓練を始める前に提出していなければ、助成金の対象にはなりません。

計画届が求められる理由は、次の点にあります。

  • 訓練内容が助成対象に該当するかを事前に確認するため
  • 制度の目的に合った人材育成かどうかを判断するため
  • 訓練内容と実施計画に無理がないかを確認するため

そのため、計画届を提出せずに訓練を実施した場合や、提出が訓練開始後になった場合は、支給対象外となります。スケジュール管理を含め、事前準備が重要です。

様式の構成と確認ポイント

計画届は、厚生労働省が定める所定の様式を使用して作成します。年度によって様式が変更されることがあるため、必ず最新の様式を確認する必要があります。

主な記載内容は、次のとおりです。

  • 事業主に関する情報(会社名、所在地、雇用保険適用事業所番号など)
  • 訓練の名称、目的、具体的な内容
  • 訓練の実施期間や訓練時間数
  • 対象となる労働者の人数や区分
  • 訓練にかかる費用の見込み

注意したいのは、訓練内容と業務との関係が明確に伝わるかどうかです。業務との関連性が分かりにくい場合、助成対象として認められない可能性があります。

記入例から学ぶ注意点

計画届の記入では、「書類を完成させること」よりも「訓練内容が正しく伝わること」が重要です。

厚生労働省が公表している記入例を参考にしながら、次の点を意識すると失敗を防ぎやすくなります。

  • 訓練名や目的を抽象的な表現にせず、具体的に記載
  • 実施期間や訓練時間は、実際に無理なく実施できる内容
  • 計画届に記載した内容と、実際の訓練内容が一致するようにする

計画と実施内容に大きなズレが生じると、支給申請時に不支給となるケースもあります。そのため、現実的で実行可能な計画を立てることが重要なポイントです。

申請手続きの流れをわかりやすく解説

人材開発支援助成金 人材育成支援コースは、申請すればすぐに支給される制度ではなく、
事前準備から訓練実施、支給申請までを段階的に進める必要がある助成金です。

全体の流れと実務上の注意点を解説します。

申請手続きの流れ

まず、制度全体の流れを把握しておくことが重要です。基本的な手続きは、次の順番で進みます。

  1. 職業訓練実施計画届(計画届)を提出
  2. 計画届の内容に沿って職業訓練を実施
  3. 訓練終了後に支給申請を行う

人材開発支援助成金は、計画届を提出する前に訓練を開始すると、対象外になる点が大きな特徴です。そのため、「計画 → 実施 → 申請」という順序を崩さないことが、最も重要なポイントです。

研修実施時の実務ポイント

訓練を実施する段階では、後の支給申請を見据えた対応が欠かせません。実務上、意識しておきたいポイントは次のとおりです。

  • 計画届に記載した内容どおりに訓練を実施
  • 訓練の実施日、時間、参加者を正確に記録
  • 出席簿やカリキュラム、教材などを整理して保管

厚生労働省の審査では、「実際に訓練が行われたかどうか」が重視されます。記録が不十分な場合、訓練を実施していても助成対象として認められない可能性があります。

支給申請時の確認事項

支給申請は、訓練がすべて終了した後に行います。申請前には、次の点を必ず確認しておく必要があります。

  • 支給申請の期限内に提出できるかを確認
  • 計画届の内容と実施した訓練内容に差がないかを確認
  • 出席簿や賃金台帳、領収書などの必要書類が揃っているかを確認

訓練費用や賃金については、助成対象となる範囲が細かく定められています。対象外となる費用を含めて申請すると、修正や不支給につながるため注意が必要です。

失敗を防ぐためのおすすめの流れ

人材開発支援助成金 人材育成支援コースは、制度の内容自体は比較的分かりやすい一方で、進め方を誤ると不支給になりやすい助成金でもあります。

実務上つまずきやすい点を踏まえ、失敗を防ぐための進め方を解説します。

社内で進める場合の注意点

社内で助成金申請を完結させることも可能ですが、いくつか注意すべき点があります。特に多いのは、制度理解と実務対応のズレによる失敗です。

社内対応で起こりやすい注意点は、次のとおりです。

  • 計画届に記載した内容と、実際の研修内容が一致していない
  • 研修の実施記録や出席管理が不十分になっている
  • 助成対象外となる費用や賃金を含めて申請してしまう

人材開発支援助成金では、「計画どおりに訓練が行われたか」「実施状況を客観的に確認できるか」が重視されます。そのため、制度を理解するだけでなく、書類管理や証憑の保管まで含めた対応が必要です。

専門家に相談するおすすめのタイミング

人材開発支援助成金に関する実務は、社会保険労務士(社労士)が専門分野です。社労士は、助成金制度の解釈や申請実務に精通しており、企業の状況に応じた助言ができます。

相談のタイミングとしておすすめなのは以下の段階です。

  • 研修内容が助成対象になるかを検討している段階
  • 計画届の内容を確定させる前
  • 初めて人材開発支援助成金を利用する場合

人材開発支援助成金は、訓練を実施した後に内容を修正することができません。そのため、計画段階で社労士に確認することが、失敗を防ぐ最も効果的な方法といえます。

制度を活かした人材育成・リスキリング

人材育成支援コースは、単に研修費用を補助する制度ではなく、企業の人材育成やリスキリングの取り組みを支援する制度として設計されています。

リスキリングとは、業務内容の変化や事業環境の変化に対応するために、従業員が新たな知識や技能を身につける取り組みを指します。

制度を効果的に活用するためには、次のような視点が重要です。

  • 現在の業務や、今後の事業展開に必要となるスキルを整理
  • 単発の研修ではなく、継続的な育成計画の一部として位置づけ
  • 新たな業務への対応や、業務の高度化につながるリスキリングを意識する

制度の趣旨を理解したうえで活用することで、助成金の活用と人材育成を無理なく両立しやすくなります。

まとめ:人材開発支援助成金「人材育成支援コース」を利用

人材開発支援助成金 人材育成支援コースは、企業が計画的に職業訓練を実施することで、研修費用や賃金の一部について支援を受けられる制度です。

利用にあたっては、対象となる条件や計画届の提出、申請手続きの流れを正しく理解しておくことが重要です。

制度の趣旨を踏まえて活用すれば、助成金の活用と人材育成、リスキリングを無理なく両立できます。自社の状況に合った進め方を整理し、今後の人材育成に役立てていくことが大切です。