人手不足や仕事の内容が変化する中で、従業員の教育やスキル向上に取り組みたいと考える企業は多くなっています。

しかし、研修費用や運用の手間が負担となり、十分な人材育成が進められないケースも少なくありません。

こうした課題を支援する制度が、人材開発支援助成金「人への投資促進コース」です。この制度では、定額制訓練などを活用し、継続的な学びを取り入れやすくなっています。

本記事では、制度の基本から定額制訓練の仕組み、対象・条件などを、実務目線で分かりやすく解説します。

人材開発支援助成金「人への投資促進コース」とは?

人材開発支援助成金「人への投資促進コース」について解説します。

制度の概要

人材開発支援助成金は、事業主が計画的に職業訓練を実施した場合に、費用負担の一部が助成される制度です。

人への投資促進コースでは、成長分野やデジタル分野を中心とした人材育成や、継続的な学び直しへの支援が行われています。

制度の基本的なポイントは次のとおりです。

項目内容
制度の目的従業員の職業能力向上やリスキリングを支援
対象事業所雇用保険適用事業所
対象となる訓練事業主が費用を負担して実施する職業訓練
主な助成内容訓練費用、訓練期間中の賃金の一部
特徴定額制訓練など継続的な学習も対象

従来の単発研修に限らず、複数講座を前提とした訓練や長期的な人材育成も想定されている点が、人への投資促進コースの特徴といえます。

制度が作られた背景

人への投資促進コースは、働き方や仕事の内容が大きく変わってきたことを背景に作られました。

パソコンやデジタル技術を使う仕事が増え、今までと同じ知識や経験だけでは対応しにくい場面が多くなったからです。そのため、働く人が新しい知識や技能を学ぶ機会が、以前よりも重要になっています。

従来の助成制度では、仕事にすぐ役立つ研修は支援できても、新しい分野を学び直す取り組みや、自分から学ぶための支援は限られていました。その結果、会社が長い目で見て人材を育てようとしても、制度を十分に活用しにくい状況がありました。

人への投資促進コースは、こうした課題をふまえ、これから必要となる分野の学習や、働く人が前向きに学び続けられる環境を整えるために導入されています。

人への投資促進コースの特徴

人への投資促進コースでは、企業がさまざまな形で人材育成に取り組めるよう、内容の異なる複数の訓練メニューが用意されています。

訓練として次の内容が示されています。

  • 高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練
  • 情報技術分野認定実習併用職業訓練
  • 自発的職業能力開発訓練
  • 長期教育訓練休暇等制度
  • 定額制訓練(サブスクリプション型)

上記の訓練は、仕事に必要な知識や技能の習得だけでなく、新しい分野を学ぶ機会や、働きながら学び続ける仕組みづくりまで幅広く支援している点が特徴です。

定額制訓練は、複数の講座を一定の料金で受講できる仕組みとなっており、eラーニングや通信訓練を活用した継続的な学習と相性が良いとされています。

企業の教育方針や、従業員が身につけたい知識・技能に応じて、柔軟に訓練内容を設計しやすい点も特徴です。

他のコースとの違い

人材開発支援助成金には複数のコースがあり、目的や支援内容が異なります。人への投資促進コースの位置づけを理解するため、主なコースとの違いを表で整理します。

コース名主な目的特徴
人材育成支援コース業務に必要な知識
技能の習得
一般的な職業訓練を幅広く支援
教育訓練休暇等付与コース教育訓練休暇制度の導入制度整備に特化した支援
人への投資促進コース成長分野
リスキリング支援
定額制訓練
自発的訓練も対象

リスキリング支援とは、働く人がこれから必要となる知識や技能を新たに学び、仕事の幅を広げるための取り組みを支援することを指します。

人への投資促進コースは短期的な研修だけでなく、中長期的な人材投資を想定した制度設計となっています。

引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金

定額制訓練とは何か?

定額制訓練は、人材開発支援助成金「人への投資促進コース」で認められている訓練の形の一つです。一定の料金で複数の研修を受講できる仕組みとなっており、継続的に学ぶ環境を整えやすい点が特徴です。

仕組みや従来の研修との違い、対象となる研修内容を解説します。

定額制訓練の仕組み

定額制訓練は、事業主が研修サービス提供事業者と契約し、決められた料金で一定期間、複数の研修を受講できる仕組みです。厚生労働省では、サブスクリプション型の訓練として位置づけています。

仕組みのポイントは次のとおりです。

  • 月額や年額などの定額料金を支払う形で利用する
  • 一つの研修ごとに費用を支払う必要がない
  • 複数の講座を組み合わせて受講できる
  • eラーニングやオンライン研修が中心

事業主が訓練費用を負担し、事前に訓練計画を提出したうえで実施することで、一定の要件を満たせば助成の対象となります。

従業員が自分のペースで学習を進めやすく、計画的な人材育成に活用しやすい仕組みです。

従来の研修制度との違い

定額制訓練は、従来の研修制度と考え方が異なります。違いを分かりやすく整理すると、次のとおりです。

項目従来の研修制度定額制訓練
費用の考え方研修ごとに費用が発生一定期間は定額料金
受講形態単発研修が中心複数講座を継続的に受講
学習の進め方必要なときに実施日常的に学びやすい
管理のしやすさ研修ごとに手続きが必要まとめて管理しやすい

従来の研修は、その都度必要な研修を選ぶ形が一般的でした。定額制訓練は、学ぶ機会を日常的に確保しやすく、学習を習慣化しやすい点が特徴です。

対象となる研修内容

定額制訓練の対象となる研修内容は、継続的に受講できる研修サービスであることが前提となります。厚生労働省では、次のような研修が想定されています。

  • eラーニングによる研修
  • 通信訓練
  • 同時双方向型のオンライン研修
  • 複数講座をまとめて受講できる研修サービス

これらの研修は、デジタル分野をはじめ、業務に必要な知識や技能の習得を目的とした内容が中心です。一定期間にわたって複数の講座を受講できる点が、定額制訓練として認められる重要なポイントとなっています。

従業員が自分の業務や理解度に合わせて学習を進められるため、企業にとっても人材育成を計画的に進めやすくなります。

引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金

定額制訓練の対象・条件は何か?

定額制訓練を活用するためには、企業・従業員・訓練内容それぞれに一定の条件があるので、くわしく解説します。

定額制訓練の対象となる企業

定額制訓練の対象となるのは、雇用保険の適用を受けている事業所の事業主です。企業規模にかかわらず利用できますが、助成金の申請主体はあくまで事業主となります。

項目内容
対象事業所雇用保険適用事業所
企業規模中小企業・大企業いずれも対象
費用負担訓練費用は事業主が負担
実施形態事業主が計画的に実施する訓練

定額制訓練は、個人ではなく企業が従業員の育成を目的として導入する制度である点が重要です。

定額制訓練の対象となる従業員

定額制訓練の対象となる従業員は、雇用保険の被保険者であることが基本条件です。雇用形態に関係なく、一定の要件を満たしていれば対象となります。

項目内容
対象者雇用保険の被保険者
雇用形態正社員・契約社員・パート等
対象外雇用保険未加入の役員など
受講形態企業が実施する訓練として受講

業務に関連する訓練として位置づけられていることが、対象となるための前提条件です。

定額制訓練を利用するための条件

定額制訓練として助成金を受けるためには、訓練の内容や実施方法についても条件があります。主なポイントは次のとおりです。

項目条件内容
訓練の形態定額制で複数講座を受講できるサービス
実施方法eラーニング・通信訓練・オンライン研修など
事前手続き訓練開始前に計画届を提出
経費助成対象となる上限・要件あり

単発の研修や、定額制に該当しないサービスは対象外となる場合があります。導入前に、訓練内容が制度要件を満たしているか確認することが重要です。

人材開発支援助成金「人への投資促進コース」メリット

人への投資促進コースは、企業と従業員の双方にとって、人材育成に取り組みやすくなる点が特徴です。

企業側・従業員側それぞれのメリットと、実務で想定される活用例をご紹介します。

企業にとってのメリット

人への投資促進コースを活用することで、企業は人材育成にかかる費用や運用面の負担を抑えやすくなります。

主なメリットは次のとおりです。

観点内容
費用面訓練費用や賃金の一部が助成対象になります
教育機会定額制訓練により複数の研修を導入しやすくなります
育成計画単発ではなく中長期の人材育成を進めやすくなります
制度活用成長分野や新しい分野への対応を制度面で後押しできます

助成金を活用することで、これまで費用面で導入を見送っていた研修や、継続的な学習環境を整えやすくなる点が企業にとっての大きな利点です。

従業員にとってのメリット

従業員にとっては、働きながら学ぶ機会が広がる点がメリットです。制度を活用した研修には、次のような価値があります。

観点内容
学習機会会社の支援により研修を受けやすくなります
学び方eラーニングやオンライン研修で自分のペースで学べます
知識・技能業務に役立つ知識や新しい分野の理解が深まります
将来性仕事の幅を広げるきっかけになります

会社が学びの場を用意することで、従業員は安心してスキルアップに取り組みやすくなり、働きがいや定着にもつながります。

具体的な活用例

人への投資促進コースは、企業の状況や目的に応じて柔軟に活用できます。代表的な活用例は次のとおりです。

活用シーン内容
デジタル対応定額制訓練を使いITやデジタル分野の講座を複数受講
社員教育全社員向けに基礎的な知識を学ぶオンライン研修を導入
管理職育成管理職向けのマネジメント研修を継続的に実施
自主的学習従業員が関心のある業務関連講座を選んで受講

定額制訓練を活用することで、講座を固定せず、必要に応じて内容を見直しながら人材育成を進めやすくなります。

申請方法・必要書類と注意点

人への投資促進コースを利用するには、訓練を始める前から計画的に手続きを進める必要があります。申請の流れや準備が必要な書類、つまずきやすい注意点などを解説します。

申請方法の流れ

申請は「事前準備 → 訓練実施 → 事後申請」という流れで進みます。全体像は次のとおりです。

手順内容
① 計画届の提出訓練開始前に、訓練内容や受講者を記載した計画書を労働局へ提出します
② 訓練の実施提出した計画に沿って訓練を実施し、受講記録を残します
③ 支給申請訓練終了後、期限内に支給申請書類を提出します
④ 審査・支給書類審査後、問題がなければ助成金が支給されます

計画届を提出せずに訓練を開始した場合、原則として助成の対象にならないため、事前手続きが重要です。

必要書類

申請時には、訓練内容や実施状況を確認するための書類を提出します。主な書類は次のとおりです。

区分主な書類
計画段階職業訓練実施計画届
申請段階支給申請書
確認書類支給要件確認申立書、事業所確認票
訓練実績受講者一覧、訓練実施状況報告書
経費関係領収書、請求書、経費内訳書

提出書類は訓練内容や実施方法によって異なるため、最新の様式を確認したうえで準備することが大切です。

申請時の注意点

申請手続きでは、次の点に注意することでトラブルを防ぎやすくなります。

  • 訓練開始前に計画届を提出していることを確認する
  • 支給申請には期限があり、期限を過ぎると申請できない
  • 書類の記載内容と実際の訓練内容に違いがないようにする
  • 領収書や受講記録などの証拠書類は必ず保管する
  • 年度ごとに制度や様式が変更される場合がある

書類の不備や提出漏れは差し戻しや不支給の原因になりやすいため、提出前にチェックリストを作成して確認すると安心です。

まとめ:人材開発支援助成金「人への投資促進コース」を利用しよう

人材開発支援助成金「人への投資促進コース」は、企業が従業員の教育や学び直しに取り組む際の負担を軽くできる制度です。定額制訓練を活用することで、複数の研修を継続的に導入しやすくなり、人材育成を計画的に進めやすくなります。

一方で、制度を利用するには対象や条件を正しく理解し、訓練開始前から申請準備を行うことが欠かせません。申請方法や必要書類、注意点を事前に把握しておくことで、手続きのトラブルも防ぎやすくなります。

人材育成やスキル強化を検討している企業は、制度の内容を確認し、自社に合った活用方法を検討してみるとよいでしょう。