人材不足や市場環境の変化が進む中、企業には従業員のスキルを見直し、将来を見据えた人材育成に取り組む姿勢が求められています。そこで注目されているのが、人材開発支援助成金におけるリスキリングです。
この制度を活用すれば、事業展開や業務転換に必要な知識・技能の習得を、助成金によって支援してもらえます。一方で、助成額や上限額、申請流れなどには細かなルールがあり、事前の理解が欠かせません。
本記事では、人材開発支援助成金リスキリングの仕組みや活用ポイント、制度を検討する際に判断しやすい情報を分かりやすく解説します。
人材開発支援助成金のリスキリングとは?
人材開発支援助成金におけるリスキリングは、企業が将来の事業変化に対応するために人材育成を行う際の公的支援制度です。
人材開発支援助成金の基本的な考え方、リスキリング支援の位置づけ、他制度との違いを解説します。
人材開発支援助成金とは?
人材開発支援助成金は、企業が計画的に実施する職業訓練に対し、国が費用面で支援する制度です。労働者の職務に関連する知識や技能の習得を目的としています。
人材育成を通じて、企業の生産性向上や競争力強化を図る仕組みです。訓練は事前に計画を立て、所定の手続きを経たうえで実施する必要があります。
制度の基本的なポイントは以下のとおりです。
- 労働者に対する職務関連の訓練が対象
- 訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される
- 訓練開始前に計画届の提出と認定が求められる
人材開発支援助成金は複数のコースで構成されており、企業の目的や育成したい人材像に応じて使い分ける制度です。
人材開発支援助成金のリスキリングとは?
人材開発支援助成金のリスキリングは、事業内容の変化や新たな分野への進出に対応するための人材育成を支援する考え方です。
リスキリングとは、これまでの業務で培ったスキルを前提にしつつ、将来必要となる新しい知識や技能をあらためて身に付けることを指します。単なるスキルアップではなく、業務内容そのものが変わることを想定した、学び直しである点が特徴です。
人材開発支援助成金では、このリスキリングの考え方を制度として位置づけ、事業展開等リスキリング支援コースを通じて支援しています。既存業務の延長ではなく、今後の事業に必要となるスキル習得が想定されています。
対象となる訓練の考え方は次のとおりです。
- 新規事業の立ち上げや業務転換に伴う訓練が対象となる
- デジタル分野や新技術への対応を目的とした訓練が想定される
- 企業の中長期的な事業計画に基づく訓練設計が求められる
上記のように、事業戦略と人材育成を連動させる点が、人材開発支援助成金におけるリスキリングの大きな特徴です。
他の助成金制度との違い
人材開発支援助成金リスキリングは、他の助成金や補助金と比べると、支援の目的や対象が明確に異なります。
混同しやすい制度との違いを解説します。
| 比較項目 | 人材開発支援助成金 リスキリング | 雇用維持系助成金 | 設備投資系補助金 |
| 主な目的 | 事業展開に必要な新たな知識・技能の習得 | 雇用の維持・失業防止 | 生産性向上や設備更新 |
| 支援対象 | 職業訓練の実施 | 賃金・休業手当など | 機械・システム導入 |
| 支援内容 | 訓練経費・訓練期間中賃金の一部 | 賃金補填・給付 | 設備費用の一部補助 |
| 想定される活用場面 | 新規事業・業務転換・DX対応 | 景気変動時の雇用対策 | 省力化・効率化投資 |
| 人材育成との関係 | 人材育成が制度の中心 | 直接的な育成支援は少ない | 人材育成は付随的 |
人材開発支援助成金のリスキリングは、人材育成そのものを軸に制度が設計されており、将来の事業展開を見据えた取り組みに適した助成金である点が特徴です。
人材開発支援助成金リスキリングの助成額・上限額の一覧

人材開発支援助成金のリスキリングでは、訓練にかかる費用と訓練期間中の賃金の一部が助成されます。助成額や上限額を一覧で解説します。
人材開発支援助成金のリスキリング助成額
事業展開等リスキリング支援コースでは、訓練経費と賃金について、以下の助成が行われます。
| 区分 | 中小企業 | 中小企業以外 |
| 経費助成率 | 75% | 60% |
| 賃金助成額 | 1人1時間あたり960円 | 1人1時間あたり480円 |
助成対象となる訓練は、原則として10時間以上のOFF-JT(座学やeラーニング等)です。訓練内容や実施方法によって、助成対象の可否が判断されます。
助成額の上限額はいくら?
助成額には、1人あたりの上限と、事業所単位の年間上限が設定されています。訓練時間に応じた上限額は次のとおりです。
経費助成の上限額(1人1訓練あたり)
| 訓練時間 | 中小企業 | 中小企業以外 |
| 10~100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 100~200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
賃金助成には次の制限があります。
- 賃金助成の対象時間は1人あたり年間1,200時間まで
- 専門実践教育訓練の場合は1,600時間まで
- 1事業所あたりの年間支給限度額は1億円
上限額を超えた部分は助成対象外となるため、訓練計画段階での確認が欠かせません。
助成対象となる経費一覧
助成対象となるのは、訓練の実施に直接必要と認められる経費です。主な対象経費は以下のとおりです。
| 経費区分 | 内容例 |
| 受講料・講座費 | 外部研修機関の受講料 講師謝金 |
| 教材費 | テキスト代 教材購入費 |
| 訓練運営費 | 訓練実施に必要な資料作成費等 |
| 専門家謝金 | 外部講師・専門家への謝金 |
なお、受講者の旅費や食事代、訓練と直接関係しない費用は原則として助成対象外です。eラーニングや定額制サービスを利用する場合は、対象経費の範囲が限定されます。
引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」「人材開発支援助成金」
対象要件と利用できる企業の条件
人材開発支援助成金のリスキリングを活用するには、事業主や労働者、訓練内容それぞれについて要件を満たす必要があります。
制度の対象となる条件と、対象外となるケースを解説します。
対象となる事業主の要件
人材開発支援助成金リスキリングは、一定の条件を満たす事業主が申請できます。
主な要件は次のとおりです。
- 雇用保険の適用事業所である
- 事業展開等実施計画および訓練実施計画を作成し所轄労働局へ提出している
- 計画に基づき、適切に職業訓練を実施・管理できる体制が整っている
- 労働基準法や最低賃金法など、労働関係法令を遵守している
法人・個人事業主の別は問われませんが、雇用保険制度の適用を受けていることが前提条件となります。
対象となる労働者・リスキリング内容
助成対象となる労働者や訓練内容にも、制度上の条件が定められています。対象となる基本的な考え方は次のとおりです。
- 訓練対象者は雇用保険の被保険者である
- 訓練内容は事業展開や業務転換に必要な知識・技能の習得を目的としている
- 原則として10時間以上のOFF-JTによる訓練である
- 職務内容や今後の業務に関連性がある訓練である
単なる一般研修や自己啓発的な内容ではなく、事業の変化に対応するためのリスキリングであることが求められます。
対象外となる主なケース
要件を満たしていない場合、助成金の対象外となることがあります。
主なケースは次のとおりです。
- 訓練対象者が雇用保険の被保険者でない
- 事業展開や業務変化と関係のない一般的な研修のみを実施している
- 訓練計画届や支給申請書の提出期限を守っていない
- 必要書類に不備があり、内容確認ができない
- 労働関係法令違反や不正受給歴がある
対象外となるケースは細かく定められているため、計画段階で要件に該当するかを慎重に確認することが重要です。
引用元:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」
申請流れ・必要書類・期限について

人材開発支援助成金のリスキリングは、訓練開始前の手続きと訓練終了後の支給申請を正しく行う必要があります。
申請の流れや必要書類、期限を解説します。
人材開発支援助成金のリスキリング申請流れ
人材開発支援助成金のリスキリングは、訓練開始前から手続きが始まる助成金です。申請の各段階を解説します。
| 手続きの段階 | 主な内容 | ポイント |
| ① 事前準備 | 訓練内容・対象者・実施時期を整理する | 事業展開や業務転換との関連性を明確にする |
| ② 計画届の提出 | 訓練開始日から起算して6か月前から1か月前までの間に、職業訓練実施計画届等を労働局へ提出する必要がある | 事前申請が必須であり、この期間内に提出されていない訓練は助成対象外となる |
| ③ 訓練の実施 | 提出した計画に沿って対象労働者へ訓練を実施する | 訓練内容・時間・対象者の変更は原則不可 |
| ④ 経費の支払い・管理 | 研修費用の支払い、出席簿や領収書の保管を行う | 支給申請時の証憑書類として必要 |
| ⑤ 支給申請 | 訓練終了後、所定期限内に支給申請書を提出する | 提出期限を過ぎると申請不可 |
| ⑥ 審査・支給決定 | 労働局による書類審査後、支給または不支給が決定される | 不備があると審査が長期化する場合がある |
人材開発支援助成金のリスキリングは「計画 → 実施 → 申請」という順序を厳守する必要があります。
特に計画届の提出時期が最重要ポイントとなるため、訓練開始日から逆算して準備を進めることが大切です。
人材開発支援助成金リスキリングの必要書類一覧
申請には、計画段階と支給申請段階でそれぞれ必要書類があります。主な書類は次のとおりです。
| 区分 | 主な書類 |
| 計画届提出時 | 職業訓練実施計画届 事業展開等実施計画 対象労働者一覧 |
| 訓練実施中 | 出席簿 訓練実施状況が確認できる資料 |
| 支給申請時 | 支給申請書 支払証明書類 賃金台帳出勤簿 |
提出様式は厚生労働省が指定しており、最新版を使用する必要があります。書類の不足や記載漏れがあると、審査に時間がかかる、または不支給となる場合があるので注意が必要です。
申請はいつまで可能か
申請期限は、計画届と支給申請でそれぞれ定められています。期限を過ぎると申請できないため、早めの準備が重要です。
- 職業訓練実施計画届は訓練開始日の1か月前までに提出する
- 支給申請書は訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に提出する
また、制度自体が年度単位で運用されており、予算状況や制度改正により取扱いが変更される場合があります。
実際の申請にあたっては、所轄の労働局や最新の公式資料を確認することが重要です。
メリット・デメリットから活用判断

人材開発支援助成金リスキリングのメリットとデメリットを解説します。どのような企業に向いているかを判断しやすくなるでしょう。
人材開発支援助成金のリスキリング:メリット
人材開発支援助成金のリスキリングには、企業の人材戦略を支える複数のメリットがあり、以下の通りです。
- 訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が返済不要の助成金として支給される
- 外部研修や専門講師を活用した高度な訓練にも取り組みやすくなる
- 既存社員のスキル転換により新規採用に頼らない人材確保が可能となる
- 事業転換やDX推進など、中長期的な経営戦略と人材育成を結び付けやすい
コスト負担を抑えながら、将来を見据えた人材育成に取り組める点が大きなメリットです。
利用前に知っておきたいデメリット
制度活用にあたっては、事前に理解しておくべき注意点もあり、以下の通りです。
- 助成金は後払い方式のため訓練費用や賃金の一時的な立替が必要となる
- 訓練計画の作成や申請書類の準備に一定の時間と労力を要する
- 訓練内容や対象者が要件に合致しない場合は助成対象外となる
- 制度内容や運用ルールが年度ごとに変更される可能性がある
制度を十分に活用するには、事前準備と要件確認を丁寧に行うことが重要です。
制度活用に向いている企業の特徴
人材開発支援助成金リスキリングは、次のような企業に適しています。
- 新規事業の立ち上げや業務内容の転換を検討している企業
- DX化や専門分野への対応など、必要なスキルが明確になっている企業
- 中長期的な人材育成計画を立て、計画的に研修を実施できる企業
- 申請手続きや書類管理に対応できる体制を整えられる企業
制度を単なる補助金としてではなく、経営戦略と連動した人材投資として捉えられる企業ほど、高い効果を得やすくなります。
まとめ:人材開発支援助成金リスキリングを活用しよう
人材開発支援助成金リスキリングは、事業展開や業務転換に必要な人材育成を支援する制度です。助成額や上限額、対象要件、申請流れを事前に把握することで、訓練コストを抑えながら計画的にリスキリングを進められます。
一方で、事前申請が必須であることや、後払い方式による資金負担、書類準備の手間といった注意点もあります。
自社の事業方針や人材戦略と制度内容が合致するかを見極め、必要に応じて専門家の助言を取り入れながら活用することが肝要です。将来を見据えた人材基盤の強化につながります。