人事労務の現場では、ハラスメントの種類が多く、どこから対策すべきかわからない、という悩みは少なくありません。法改正により企業の防止義務が強化される中、正確な定義を理解することが、適切な対策につながります。本記事では、厚生労働省の指針に基づいた主要なハラスメントから、近年注目される最新の種類まで徹底解説します。

職場のハラスメント種類が多すぎると感じる方へ

現代の職場において、ハラスメントという言葉を聞かない日はありません。しかし、対象となる言動は年々多様化しており、実務担当者にとってはどこまでが対策の範疇なのかを判断するのが非常に困難になっています。

なぜ今、ハラスメントの種類と意味を正確に知る必要があるのか

かつての職場では熱血指導や親睦のためのコミュニケーションとして許容されていた言動が、現在では明白なハラスメントと認定されるケースが急増しています。これには大きく分けて3つの背景があります。

第一に、法規制の強化です。2022年4月から、労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止措置が、中小企業にも義務化されました。 これに伴い、企業は単なる努力目標ではなく、法的責任がより厳しく問われるようになっています。

第二に、労働者の意識変化と多様化です。働き方改革やダイバーシティの推進により、個々の価値観を尊重する文化が浸透しました。自分にとって不快な言動を我慢するのではなく、権利として主張する労働者が増えたことは、職場環境の改善につながる変化とも考えられます。

第三に、ソーシャルリスクの増大です。不適切な言動がSNS等で拡散されれば、企業のブランドイメージは一瞬で失墜します。採用難の時代において「ハラスメント対策が不十分な会社」という印象は、企業の採用力や信頼性に影響する可能性があります。だからこそ、表面的な理解ではなく、各ハラスメントが持つ正確な意味を理解しておくことが重要です。

ハラスメントの全体像を把握する「全種類一覧表」の活用法

世の中には40種類、あるいはそれ以上のハラスメントが存在すると言われています。これらを一つひとつバラバラに覚えようとすると、情報を整理しきれなくなるおそれがあります。実務上は、これらを「法令で義務化されているもの」「社会通念上配慮が必要なもの」「近年新しく定義されたもの」という3つのレイヤーで整理した一覧表としてまとめておくことをおすすめします。

一覧表を手元にあれば、社員からの相談があった際に、それがどの類型に該当するのか、あるいは複合的な要素(例えばパワハラとセクハラの同時発生など)を含んでいるのかを迅速に判断できます。また、研修資料を作成する際にも、全体像を示してから各論に入ることで、受講者が理解しやすくなります。

【最新】厚生労働省が定義する職場での主要なハラスメント

企業が最優先で対策を講じなければならないのは、厚生労働省が指針を示し、法律で防止措置が義務付けられているハラスメントです。

承知いたしました。全体の文章量に過度な影響を与えないよう、職場の主要なハラスメントに絞り、シンプルかつ簡潔にまとめた比較表を作成しました。記事の「全種類一覧表の活用法」や「職場の3大ハラスメント」の段落直後などに挿入してご活用ください。

【比較表】職場の主要ハラスメント一覧

種類名定義具体的行為例法的根拠
パワーハラスメント(パワハラ)優越的な関係を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為人格を否定する暴言、無視、過大な要求、隔離労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
セクシュアルハラスメント(セクハラ)職場における性的な言動により、就業環境を悪化させたり不利益を与えたりする行為性的な噂の流布、不要な身体接触、交際の強要男女雇用機会均等法
マタニティハラスメント(マタハラ等)妊娠・出産・育児休業等の申し出や取得を理由に、不利益な取り扱いをしたり嫌がらせをする行為「休むなら辞めろ」と促す、復職時の不当な降格男女雇用機会均等法育児・介護休業法
カスタマーハラスメント(カスハラ)顧客や取引先からの理不尽・著しい迷惑行為により、就業環境を害する行為長時間の居座り、土下座の要求、執拗な言いがかり令和8年10月1日施行の改正法により、防止措置が事業主の義務化予定東京都など一部自治体では条例あり 

パワーハラスメント(パワハラ)の定義と3要素

パワーハラスメントは、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動:上司から部下への指示だけでなく、専門知識を持つ部下から上司への嫌がらせ、あるいは集団による個人への無視なども含まれます。
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの:明らかに業務に関係のない個人的な用事の強制や、人格を否定するような叱責が該当します。
  3. 労働者の就業環境が害されるもの:身体的または精神的な苦痛を与え、業務に支障をきたす状態を指します。

この定義で重要なのは、業務上の適正な指導との切り分けです。客観的に見て業務に必要な指示であり、その態様が社会通念に照らして妥当であれば、それはパワハラには該当しません。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)の判断基準

セクシュアルハラスメントは、職場において行われる性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことで不利益を受けたり(対価型)、性的な言動により就業環境が不快なものとなったりすること(環境型)を指します。

判断基準において特に注意すべきは、被害を受けた側の感じ方に加え、一般的な労働者の受け止め方も踏まえて判断される点です発言した側に悪気がなく、褒め言葉のつもりであったとしても、受け手が不快に感じ、それが平均的な労働者の感覚からも妥当であればセクハラとみなされる可能性があります。また、異性間だけでなく同性間、あるいは性的マイノリティに対する言動も対象となります。

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ等)

マタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)は、妊娠、出産、育児休業、介護休業等の制度を利用しようとする労働者に対し、解雇や降格などの不利益な取り扱いをしたり、嫌がらせをしたりすることを指します。

これには「制度利用を阻害する言動」と「状態に対する嫌がらせ」の2パターンがあります。例えば、産休を申請した部下に対し「忙しい時期に迷惑だ」と叱責することはもちろん、育休帰りの社員に対して「もう席はない」と告げることも問題となる可能性があります。近年では男性の育休取得推進に伴い、パタハラの防止も強く求められています。

出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」

職場リスクを判断するための一覧表|全40種類以上の分類

主要な3種以外にも、職場には多種多様なリスクが潜んでいます。ここでは、重要度の高い種類をさらに深掘りします。

法的な義務化が進む「職場の3大ハラスメント」

前述したパワハラ・セクハラ・マタハラ等は、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、労働施策総合推進法によって、企業に相談体制の整備や再発防止策の構築などが厳格に義務付けられています。これらを放置すると、行政指導の対象となる可能性があります。

近年注目されるカスタマーハラスメント(カスハラ)の最新動向

近年急速に法整備や条例制定が進んでいるのが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。顧客や取引先からの著しい迷惑行為を指します。

カスハラの特徴は、加害者が「お客様」であるという点です。そのため、従業員は反論しにくく、精神的に追い詰められやすい傾向にあります。企業には、理不尽な要求から従業員を守るための明確な対応方針(マニュアル)の策定が求められています。

出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 

ジェンダー、SOGIハラスメントへの配慮と企業の責任

SOGI(性的指向・性自認)に関するハラスメントも、近年のダイバーシティ推進において無視できない要素です。本人の承諾なく性的指向を暴露する「アウティング」や、性自認を侮辱する言動は、人格権の侵害として厳しく批判されます。多様な人材が活躍できる職場を作るためには、これらの概念を一覧表に含め、周知することが重要です。

リモートワークで増加したテレハラ・リモハラの注意点

働き方の変化に伴い、テレワーク下での「テレハラ(リモハラ)」も問題視されています。

  • Web会議中にプライベートな部屋の内装を過度に詮索する
  • カメラを常にオンにするよう強制し、監視を行う
  • 勤務時間外や休日でも、チャットやメールですぐに返信するよう強要する 

これらは、物理的な距離があるからこそ生じる新しい形のハラスメントです。見えないことへの不安から管理を強めすぎることが、結果としてハラスメントに繋がるケースが多く見られます。

【実務用】ハラスメント種類別・具体的な言動例と対策一覧

つぎに、実務上での対策について解説します。

社内規定の整備に役立つ「一覧表pdf」の作成ポイント

社内規定を整備する際は、単に「ハラスメントを禁止する」と書くだけでは不十分です。具体的に何が禁止されているのかを社員がイメージできるよう、一覧表pdfを作成し、就業規則の別表や社内ポータルに掲示することをおすすめします。

出典:厚生労働省 リーフレット(詳細版)

PDF資料を作成する際のポイントは、「NG例」だけでなく「望ましいコミュニケーション例」もセットで記載することです。言ってはいけないことばかりに焦点を当てると、社員が必要以上に発言を控えてしまうリスクがあるためです。

複雑な判断を要するグレーゾーンへのハラスメント対策の進め方

実務で最も頭を悩ませるのは、黒白はっきりしないグレーゾーンの事案です。例えば、何度も同じミスを繰り返す部下に対し、少し厳しい口調で注意した場合、これはパワハラでしょうか、それとも正当な指導でしょうか。

こうした事案への対策は、「プロセス」を可視化することが重要です。指導の目的は何か、場所や時間は適切だったか、本人の言い分を聴く機会を設けたか、といったプロセスを記録しておくことで、万が一トラブルになった際にも、企業としての正当性を主張できるようになります。

厚生労働省の指針に基づいた相談窓口の設置義務

ハラスメント対策の柱となるのが「相談窓口」です。単に担当者を決めるだけでなく、以下の要件を満たす必要があります。

  1. プライバシーの保護:相談者の秘密保持に十分配慮された仕組みであること。
  2. 不利益取り扱いの禁止:相談したことを理由に解雇や嫌がらせを受けないことを明文化し、周知すること。
  3. 適切な事後対応:相談を受けて終わりではなく、事実確認を行い、必要に応じて是正措置や被害者のケアを行う体制を整えること。

実効性のある窓口を整備することで、問題を早期に解決しやすくなります。

ハラスメント発生時の企業リスクと法的責任

万が一ハラスメントが発生してしまった場合、企業が負うリスクは計り知れません。

安全配慮義務違反と損害賠償リスク

企業は労働者に対し、心身の安全を確保しつつ働けるよう配慮する安全配慮義務を負っています(労働契約法第5条)。ハラスメントを放置し、労働者がメンタルヘルス不調をきたしたり、深刻な健康被害が生じた場合、企業はこの義務を怠ったとして多額の損害賠償を命じられる可能性があります。これは加害者個人だけでなく、企業としての使用者責任(民法第715条)も問われるため、非常に重いリスクです。

企業名公表によるブランドイメージの毀損を防ぐには

厚生労働省は、重大な法令違反や改善勧告に従わない企業に対し、その社名を公表する制度を持っています。デジタル化社会において、一度公表された社名は半永久的にネット上に残り続けます。これにより、新規採用の不調、既存顧客の離反、銀行融資への悪影響など、ビジネスの根幹を揺るがす事態を招きかねません。

加害者・被害者双方へのヒアリングと適切な処遇

問題が発生した際は極めて慎重にヒアリングを行う必要があります。被害者の感情に寄り添うことはもちろんですが、加害者とされる側にも言い分を述べる機会を公平に与えなければなりません。 事実確認が不十分なまま加害者に懲戒処分を下すと、今度は加害者側から不当解雇や名誉毀損で訴えられるなど別のトラブルリスクが発生します。客観的な事実に基づき、就業規則に照らして一貫性のある処遇を決定することが、企業の法的防衛ラインとなります。

研修資料にそのまま使える!ハラスメント防止のチェックリスト

予防こそが最大の対策です。社内研修を実施する際に活用できるポイントをまとめました。

管理職が知っておくべき「指導」と「ハラスメント」の境界線

管理職向け研修で最も重要なのは、指導を放棄させないことです。ハラスメントを恐れるあまり、必要な注意もできない「逆パワハラ」や、適切なマネジメントが行いにくくなるおそれがあります。

  • 場所:人前で叱責していないか。
  • 内容:能力や人格を否定する言葉を使っていないか(「バカ」「給料泥棒」など)。
  • 時間:必要以上に長時間拘束したり、深夜・休日に連絡を繰り返したりしていないか。 

これらをチェックリスト化し、日常のマネジメントを振り返る機会を提供しましょう。

一般社員向けコンプライアンス教育の進め方

一般社員向けには、自分も加害者になり得るという当事者意識を持ってもらうことが重要です。特に、ジェンダーバイアスや無意識の偏見が、悪気のないセクハラや嫌がらせを生んでいるケースが多いことを伝えます。 また、ハラスメントを目撃した際の対応(傍観者にならないこと)についても教育を行うことで、職場自浄作用を高めることができます。

2025年以降の法改正を見据えた社内体制のアップデート

2026年10月以降、カスタマーハラスメント対策や求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策についても、防止措置の実効性がより重要になります。 単に窓口がある、研修をしたという形式的な対応ではなく、実際にハラスメント件数が減少しているか、相談者の満足度はどうかといったデータによる管理が大切になってくるでしょう。 また、育児・介護休業法の改正等により、これまで以上に多様な働き方を認める必要が出てきます。これに伴う新たな摩擦を防ぐため、定期的に社内の一覧表と対策をアップデートしていく必要があります。

まとめ:ハラスメントのない職場環境づくりに向けて

ハラスメントの種類は多岐にわたり、今後も社会情勢の変化とともに増え続けるでしょう。しかし、その根底にあるのは常に「相手に対する敬意の欠如」です。

人事労務担当者の役割は、単にルールを押し付けるだけでなく、社員全員が心理的安全性を感じながら能力を発揮できる土壌を整えることにあります。今回ご紹介した厚生労働省の定義や一覧表を、ぜひ貴社の健全な組織運営に役立ててください。

ハラスメント対策は短期間で整備できるものではありません。法律の解釈、規程の整備、そして万が一のトラブル対応まで、専門的な知見が求められる場面が多々あります。最新の法改正への対応や、自社に最適な防止策の策定、効果的な研修の実施についてお悩みであれば、専門家である社会保険労務士への相談をおすすめします。

社会保険労務士法人グロースアシストでは、制度活用のアドバイスから、助成金の申請サポート、実務に即した規程の整備まで、幅広く企業の成長を支援しています。

より詳細な情報や、個別のご相談については、ぜひ公式ウェブサイトをご確認ください。