昨今、職場における「ハラスメント」という言葉は、単なるマナーの問題ではなく、企業が解決すべき重大な経営リスクとして認識されています。労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の施行により、すべての企業に対して防止措置が義務付けられたことで、人事労務担当者や管理職には、より深い知識と具体的な対応力が求められるようになりました。
しかし、現場では「何がハラスメントに該当するのか」「どこまでが正当な指導なのか」という判断に迷う声が絶えません。また、パワハラやセクハラ以外にも、時代の変化とともに新しいハラスメントの種類が次々と生まれており、その全体像を把握することは容易ではありません。
本記事では、厚生労働省の定義に基づいたハラスメントの一覧から、最新の事例、そして企業が取るべき具体的な防止策までを詳しく解説します。

職場で起こるハラスメントの種類と最新の全体像
ハラスメントとは、相手の意に反する言動によって、不利益を与えたり就業環境を悪化させたりすることを指します。まずは、なぜ今これほどまでにハラスメントの把握が重視されているのか、その背景から見ていきましょう。
なぜ今「ハラスメントの種類」を正確に把握すべきなのか
かつての職場では「熱血指導」や「コミュニケーションの一環」として片付けられていた言動も、現在では明確なハラスメント問題として指摘される場合があります。企業がハラスメントの種類を正確に把握しなければならない理由は、主に3点あります。
第一に、法的リスクの回避です。ハラスメントを放置すると、事案の内容によっては安全配慮義務違反として損害賠償請求の対象となる可能性があります。また、行政から助言・指導・勧告等を受けるリスクもあります。 第二に、人材の流出防止です。ハラスメントが横行する職場では従業員のモチベーションが低下し、優秀な人材の離職リスクが高まります。 第三に、メンタルヘルス対策です。精神障害による労災認定件数において、ハラスメントに関連する事案は高い割合を占めており、従業員の命と健康を守るために、発生を未然に防ぐ知識が不可欠です。
厚生労働省が定義する主要なハラスメントと言葉の変遷
日本の労働法規において、特に重点的に対策が求められているのは「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」の3つです。これらは法律によって企業の防止措置が義務付けられています。
一方で、近年の流行語のように次々と生まれる「〇〇ハラ」という言葉にも注目が必要です。かつては存在しなかった概念が可視化されることで、これまで泣き寝入りしていた労働者が声を上げやすくなったという側面があります。しかし、あまりにも言葉が一人歩きし、何でもハラスメントだと主張する「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」といった現象も起きているため、公的な定義に立ち返る姿勢も大切です。
現代の職場環境で求められるコンプライアンス意識
性別、年齢、国籍、宗教、性的指向、価値観など、自分とは異なる属性を持つ他者に対して、不用意な言動がどのような影響を与えるかを想像する力こそが、現代のコンプライアンス(法令遵守)意識の核心と言えます。ハラスメント対策は、単なる禁止事項のリストアップではなく、お互いが気持ちよく働ける文化づくりであると再定義する必要があります。
ハラスメント防止対策に関する「資格」や専門家の役割
ハラスメント対策を専門的に担うための資格も注目を集めています。例えば、産業カウンセラーやメンタルヘルス・マネジメント検定などは、従業員の心理的なサポートや組織改善に役立ちます。
しかし、法的な判断や制度設計においては、社会保険労務士などの労働法の専門家の役割が非常に大きくなります。専門家は、客観的な視点から組織の課題を分析し、法的に有効な就業規則の作成や、実効性のある相談窓口の運用をサポートします。自社だけで抱え込まず、外部の知見を導入することが、迅速かつ適正な解決への近道となります。
職場のハラスメント種類と具体的な該当行為
ここでは、職場で発生しやすいハラスメントの具体的な中身を見ていきましょう。それぞれの定義と、どのような行為が該当するのかを整理します。
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文字数を抑えつつ、研修や資料作成にもそのまま活用できるよう、内容を凝縮しています。
ハラスメント主要3類型 比較表
| 種類名 | 定義 | 具体的行為例 | 法的根拠 |
| パワーハラスメント(パワハラ) | 職務上の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為 | ・人格を否定するような暴言・意図的な無視や隔離・不可能な業務の強要 | 労働施策総合推進法(第30条の2) |
| セクシュアルハラスメント(セクハラ) | 職場における性的な言動により、就業環境を悪化させたり労働者に不利益を与えたりする行為 | ・性的な事実関係の噂を流す・不要な身体への接触・交際や性的な関係の強要 | 男女雇用機会均等法(第11条) |
| 妊娠・出産・育児休業等(マタハラ・パタハラ) | 妊娠・出産や育児・介護制度の利用に関する言動により、就業環境を悪化させる行為 | ・「妊婦はこれだから困る」と発言・育休取得を理由に減給を唆す・制度利用を妨害する言動 | 男女雇用機会均等法(第11条の2)育児・介護休業法(第25条) |
パワーハラスメント(パワハラ)の定義と6つの類型
パワハラとは、職場において優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることを指します。厚生労働省はこれを以下の6つの類型に分類しています。
- 身体的な攻撃: 殴る、蹴る、物を投げつけるなどの暴行。
- 精神的な攻撃: 人格を否定するような暴言、他の従業員の前での執拗な叱責。
- 人間関係からの切り離し: 意図的な仲間外れ、無視、別室への隔離。
- 過大な要求: 到底不可能な業務の強制、私的な雑用の強要。
- 過小な要求: 誰にでもできる程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない。
- 個の侵害: 私生活に過度に干渉する、本人の承諾なく機密性の高い個人情報を暴露する。
これらは単独で発生するだけでなく、組み合わさって深刻化するケースも多く見られます。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)の判断基準
セクハラは、職場において行われる性的な言動により労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指します。その中でも対価型と環境型があります。
対価型セクハラは、性的な関係を拒否したことで解雇や減給をされるといったケースです。環境型セクハラは、性的な冗談を言われたり、卑猥なポスターが貼られていたりすることで、苦痛を感じて業務に支障が出るケースです。 判断基準で最も重要なのは相手がどう感じたかですが、同時に平均的な労働者の感じ方という客観的な視点も加味されます。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)
妊娠、出産、育児休業、介護休業等の制度利用に関する言動により、就業環境が害されることを指します。例えば、妊娠を報告した職員に対して「忙しい時期に迷惑だ」と言う、男性の育休取得希望者に対して「男のくせに休むのか、出世は諦めろ」と示唆するといった行為です。これらは男女雇用機会均等法や育児・介護休業法上、事業主が防止措置を講じるべき対象となります。また、妊娠・出産、育児休業等の取得を理由とする不利益取扱いは禁止されています。

リモートワーク等で増加する「テレハラ・テクハラ」の実態
働き方の多様化に伴い、新たなハラスメントも表面化しています。 「テレハラ(リモートハラスメント)」は、Web会議中に私生活の背景や服装を過度に詮索したり、カメラを常時オンにするよう強要して監視したりする行為です。 また、「テクハラ(テクノロジーハラスメント)」は、ITスキルが低い従業員に対して「こんなこともできないのか」と罵倒したり、不必要なデジタルツールの導入を強制して追い詰めたりする行為を指します。これらは物理的な距離があるからこそ、言葉の刃が鋭くなりやすい傾向にあります。
介護や年齢を理由とした「ケアハラ・エイジハラ」とは
「ケアハラ」は、家族の介護を行っている労働者に対して、残業ができないことを責めたり、昇進の機会を奪ったりする行為です。超高齢社会において、ケアハラへの対応は企業の持続可能性を左右します。 また「エイジハラ(エイジハラスメント)」は、年齢を理由とした差別です。「もう若くないんだから新しいことは無理だ」といった言葉や、逆に若手に対して「最近の若者は根性がない」と一括りに決めつける言動が該当します。これらは個人の能力を正当に評価しない姿勢の表れであり、組織の活性化を阻害します。

厚生労働省の資料から見るハラスメント一覧表(PDF活用ガイド)
企業がハラスメント対策を講じる際、ゼロから資料を作成するのは大変な労力です。そこで活用すべきなのが、国や自治体が提供している信頼性の高い情報源です。
社内研修に役立つ「表」の見方と活用方法
厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」では、ハラスメントの種類をまとめた一覧表や、具体的な判例集が公開されています。
これらの資料には、ハラスメントに該当する例だけでなく、ハラスメントには「該当しない」と考えられる例も併記されています。研修で活用する際は、この「該当しない例」をセットで示すことが重要です。なぜなら、管理職が「何でもパワハラと言われるのが怖くて指導できない」という委縮状態に陥るのを防ぐためです。
法的根拠となる労働施策総合推進法(パワハラ防止法)のポイント
パワハラ防止法に基づき、企業には以下の措置が義務付けられています。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発: 就業規則への記載やトップのメッセージ発信。
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備: 相談窓口の設置と担当者の教育。
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応: 事実確認、被害者への配慮、加害者への処分。
- 併せて講ずべき措置: プライバシー保護、相談を理由とした不利益な取り扱いの禁止。
これらは努力義務ではなく、法的義務です。
東京都など「条例」を制定する自治体の動きと企業の義務
法律だけでなく、各自治体が独自の条例を制定する動きも加速しています。例えば東京都では、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が令和7年4月1日に施行され、カスタマー・ハラスメント防止に関する基本理念や、東京都・顧客等・就業者・事業者の責務などが定められています。
事業所が所在する地域の条例を確認することは、その地域における企業の社会的責任(CSR)を果たす上でも欠かせません。条例は法律を補完し、より地域の実情に即した対策を求めるケースがあるため、注意が必要です。
出典:東京都産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」
ハラスメントに該当する行為とグレーゾーンの境界線
ハラスメントの境界線を見極めるのは難しく、同じ言葉でも、信頼関係や状況によって受け止められ方が大きく異なる場合があります。
指導とパワハラを分ける「業務上の必要性」の有無
正当な業務指導とパワハラを判別する際は、業務上の必要性と相当性が重要な基準となります。 例えば、重大なミスをした部下に対して「なぜこのようなミスが起きたのか、原因を報告しなさい」と命じるのは正当な指導です。しかし、「お前はバカか」「給料泥棒だ」といった相手の人格を否定する発言をしたり、人前で立たせ続けたりすることは、業務上の必要性を逸脱しており、不当な行為となります。 指導の目的が部下の成長やミスの再発防止になっているか、上司自身が冷静に振り返ることが重要です。
良かれと思った「面白い」言動がハラスメントになるリスク
面白いと思って放った冗談や、場を和ませるつもりでのいじりが、ハラスメントに発展することもあります。「最近太ったんじゃない?」「結婚はまだなの?」といったプライベートな話題への言及は、発信者側はコミュニケーションのつもりでも、言われた側にとっては深刻なストレスやプライバシー侵害につながるおそれがあります。 職場はあくまで仕事をする場所であり、相手が笑って受け流しているように見えても、内心では傷ついている可能性があることを忘れてはなりません。親しき仲にも礼儀ありという原則を、組織全体で再確認する必要があります。
企業が取り組むべきハラスメント防止策と相談窓口の設置
ハラスメントが発生してから対処するのではなく、発生させない仕組みづくりが重要です。
就業規則への明記と社内規定の整備手順
まず着手すべきは、就業規則の改定です。ハラスメントを禁止する旨を明文化し、違反した場合には懲戒処分の対象となることを明確にします。 具体的には服務規律に禁止行為を記載し、懲戒の規定にハラスメント行為への処分を紐づけます。これにより、会社としてハラスメントを一切許容しないという強い姿勢を従業員に示すことができます。また、同時にプライバシー保護に関する規定や、相談したことを理由に不利益な扱いをしない旨の規定も整備します。
社内研修用資料として使える「一覧表 pdf」の作成ヒント
社内教育を定着させるためには、従業員がいつでも見返せる資料が必要です。厚生労働省のパンフレットなどを参考に、自社の実態に合わせた「ハラスメント一覧表 pdf」を作成することをお勧めします。 このPDFには、単なる言葉の定義だけでなく、自社の行動指針や相談窓口の連絡先をセットで記載します。また、イラストや図解を多用し、直感的に理解できるデザインにすることで、従業員全体の意識向上につながります。
社外相談窓口を設置するメリットと外部委託の検討
従業員が抱える「人事評価に響くのではないか」「内容が外部に漏れるのではないか」という不安に対して相談しやすい環境を整えることで、従業員が安心して声を上げられるようになります。
そこで有効なのが、社会保険労務士などの外部専門家を活用した「社外相談窓口」の設置です。外部の専門家であれば、中立公正な立場から話を聞くことができ、従業員の安心感が高まります。また、専門的な視点から初期対応のアドバイスが得られるため、問題の深刻化を防ぐことができます。

まとめ:適切な理解と対策でハラスメントのない職場へ
ハラスメントのない職場環境を築くことは、従業員の幸福だけでなく、企業の成長やリスク管理の観点からも重要な取り組みです。ハラスメントの種類を正しく理解し、厚生労働省のガイドラインに基づいた体制を整えることで、問題の発生を防ぎやすくなります。
しかし、法改正への対応や複雑な人間関係が絡む事案の判断、実際に機能する規定の作成などは、自社だけで対応するのが難しい場面もあります。
「自社の今の規定で法律をクリアできているか不安」「ハラスメント研修を依頼したい」「公平な外部相談窓口を設置したい」といった課題をお持ちの場合は、専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人グロースアシストでは、企業の状況に合わせたハラスメント対策の構築を支援しています。就業規則の診断から、実務に即した研修の実施、万が一の際の対応まで、幅広くサポートします。
詳しくは公式ウェブサイトをご確認ください。https://growthassist.jp/