業務改善助成金を調べても、「自社が対象なのか」「いくら受け取れるのか」「パソコンや車両にも使えるのか」まで理解するのは簡単ではありません。

とくに令和8年度は制度内容が変更されており、前年度の記事を参考にすると判断を誤る可能性があります。

業務改善助成金は、従業員の賃金を引き上げながら、生産性向上につながる設備を導入する中小企業を支援する制度です。

この記事では、対象事業者の条件や助成額の決まり方、申請の流れ、車両やパソコンが対象になるケースまで順に解説します。

業務改善助成金の申請は、社労士がサポートします

業務改善助成金とは

業務改善助成金とは、従業員の賃金を引き上げるとともに、生産性向上(作業時間の短縮や売上・収益の改善)につながる設備投資を行う中小企業を支援する厚生労働省の制度です。

具体的には、事業場内で最も低い時給を50円以上引き上げ、設備やシステムなどを導入した場合に、その費用の一部が助成されます。賃上げと設備投資の両方が必要で、どちらか一方だけでは対象になりません。

また、助成されるのは設備投資などにかかった費用であり、従業員に支払う人件費そのものではありません。そのため、従業員を雇っていない一人親方や個人事業主は対象外です。助成額は、対象経費に助成率(費用のうち何割を助成してもらえるか)をかけた金額と助成上限額(受け取れる金額の上限)を比較し、低い方の金額になります。

参照:令和8年度業務改善助成金のご案内|厚生労働省

参照:業務改善助成金|厚生労働省

令和8年度における5つの変更点

令和8年度は、前年度から主に次の5点が変更されています。

変更点令和8年度の内容
助成率の基準額事業場内最低賃金による助成率の境目が、1,000円から1,050円に変更
申請コース50円・70円・90円の3コースに再編
対象事業場令和7年9月からの対象事業場の拡充を継続
申請期間受付開始が9月1日に変更
その他の変更点・自動車は特種用途自動車を除き原則対象外。
・対象労働者は雇用保険被保険者に限定。
・物価高騰等要件は最近6ヶ月間の平均利益率などで判定。

また、令和8年度は賃上げ後の申請はできません。原則として申請後に賃金を引き上げる必要があります。

参照:令和8年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ|厚生労働省

業務改善助成金の対象になる事業者をわかりやすく解説

業務改善助成金の対象になる事業者をわかりやすく解説

業務改善助成金を利用できるかどうかは、主に「中小企業に該当するか」と「従業員の賃金」の両方の条件を満たすかで判断します。

1.中小企業に該当するか

中小企業かどうかは、業種ごとに定められた「資本金等」または「労働者数」のどちらかを満たしているかで判断します。

業種資本金等労働者数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他3億円以下300人以下

大企業の子会社など実質的に大企業とみなされる「みなし大企業」は対象外です。また、労働保険(労災保険と雇用保険)への加入や保険料の納付も必要です。

2.最も低い時給が条件を満たすか

次に確認するのが「事業場内最低賃金(その事業場で対象となる労働者のうち、最も低い時給)」です。原則として、雇入れ後6ヶ月を経過した雇用保険被保険者(雇用保険に加入している労働者)のうち、最も低い時給を指します。

この金額が、改定後の地域別最低賃金を下回っている必要があります。同額の場合は申請できません。また、申請時点で現在の地域別最低賃金を下回っている場合も対象外です。

まずは賃金台帳から確認するとわかりやすいでしょう。

助成額はコース・人数・事業場規模で決まる

助成上限額は、賃上げ額、引き上げる労働者数、事業場規模によって変わります。

例として1~5人の場合は以下の通りです。

コース1人2〜3人4〜5人
50円30(40)万円40(70)万円70万円
70円40(50)万円50(100)万円130万円
90円90(100)万円150(240)万円270万円

なお、表の中のかっこ()は、事業場の労働者数が30人未満の場合です。

参照:令和8年度業務改善助成金のご案内|厚生労働省

車両購入とパソコンが対象になる3つの条件

車両購入とパソコンが対象になる3つの条件

業務改善助成金では、すべての車両やパソコンが対象になるわけではありません。基本となるのは、仕事の効率化や生産性向上につながる設備であることです。

条件①生産性の向上につながる設備投資であること

対象になるのは、作業時間の短縮や売上・収益の改善などにつながる設備投資です。例えば、POSレジや業務システムなどが挙げられます。

対象経費は原則として税抜10万円以上です。1つの設備が10万円未満でも、対象となる設備の合計が10万円以上なら申請できます。

一方、単なる経費削減や職場環境の改善、広告宣伝などを目的とした費用は対象外です。

条件②車両購入は8ナンバーの特種用途自動車に限られる

令和8年度から、一般的な営業車やトラックなどの自動車は対象外になりました。

対象になるのは、原則としてナンバープレートの分類番号が8から始まる「特種用途自動車」です。福祉車両などが該当します。

車両本体のほか、納車費用や車庫証明手続の代行費などは対象になる場合がありますが、税金や自賠責保険、オプション装備などは対象外です。

条件③パソコンは原則対象外だが例外もある

パソコンやタブレット、スマホなどは原則として対象外です。ただし、次のような場合は対象になることがあります。

  • 物価高騰で利益率が低下している「物価高騰等要件」を満たす特例事業者が新しく導入する場合
  • 業務用機器を動かすために一定以上の性能のパソコンが必要な場合
  • POSシステムなど特定の業務システムを使用するために必要と認められる場合

ただし、既存のパソコンを単純に新しいものへ買い替えるだけでは、原則として対象になりません。

厚生労働省で紹介された活用事例

長野県の介護事業(従業員30〜49人)は、リフト付特殊車両の送迎車を導入しました。車椅子の運搬という重労働が軽減され、半分の人数で送迎できるようになりました。

また、福岡県の食料品小売業(10〜19人)は、POSレジの導入で売上げが5%アップしたという事例もあります。

参照:生産性向上の事例集|厚生労働省

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令和8年度の申請はいつまでか?申請期限と手続きの流れ

令和8年度の申請はいつまでか?申請期限と手続きの流れ

令和8年度の申請受付は9月1日から始まります。申請期限は「地域別最低賃金の発効日の前日」と「11月30日」のうち、早い日です。そのため、都道府県によって締切日が異なります。

ステップ1.令和8年9月1日の受付開始までに準備を終える

受付開始までに、事業場内最低賃金の確認、導入する設備の選定、相見積りの取得などを進めておきましょう。

とくに設備は、原則として複数の業者から見積もりを取る必要があります。受付開始後に準備を始めると、申請期限に間に合わない可能性があります。

ステップ2.申請期限は地域別最低賃金の発効日から特定する

申請期限は、地域別最低賃金の発効日によって変わります。

例えば、最低賃金の発効日が10月1日の地域なら、申請期限は前日の9月30日です。11月30日まで申請できるとは限らないため、自社の所在地に適用される最低賃金の発効日を確認してください。

また、賃金の引き上げも、原則として申請後から地域別最低賃金の発効日の前日までに行う必要があります。

参照:令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について|厚生労働省

ステップ3.申請後に賃上げし、交付決定後に設備を発注する

賃上げと設備導入では、手続きのタイミングが異なります。

まず申請後に賃上げを行います。そして交付決定(審査の結果、助成対象として認められること)後に設備の契約や発注、納品となります。

ステップ4.1月31日までに事業を完了し、実績報告を経て入金される

設備の納品、代金の支払い、賃金の引き上げをすべて完了させます。原則として事業完了期限は1月31日です。

その後、実績報告(計画どおりに賃上げや設備導入を行ったことを報告する手続き)と支給申請を行い、審査を経て助成金が支払われます。

設備代はいったん事業者が全額を支払い、後から助成金を受け取る仕組みです。そのため、申請前に資金繰りも確認しておきましょう。

業務改善助成金の2つの申請方法

業務改善助成金は、「都道府県労働局への提出」と「Jグランツによる電子申請」の2つの方法で申請できます。

①記入例を見て都道府県労働局へ提出する

事業場の所在地を管轄する都道府県労働局へ、申請書類を提出します。

交付申請書などの様式や記入例、申請マニュアルは厚生労働省の公式ページから入手できます。

②Jグランツから電子申請する

GビズIDプライム(行政サービスで使う事業者向けアカウント)を取得していれば、補助金の電子申請システム「Jグランツ」から申請できます。令和8年度の申請画面は9月1日に公開予定です。

申請書の作成や提出は、社会保険労務士に依頼することもできます。ただし、申請代行費用や就業規則の作成費用は助成対象にはなりません。

申請前に不交付となる条件も確認する

申請書を正しく作成しても、一定の条件に当てはまると助成金を受け取れません。

例えば、労働保険料を未納のままにしている場合や、一定期間内に不適切な賃金の引き下げ、労働基準監督署からの是正勧告がある場合などです。

また、導入してもほとんど使用しない設備は、生産性向上につながらないと判断され、不交付になることがあります。

厚生労働省のQ&Aページでも不明点を確認できる

厚生労働省のQ&Aには、交付要綱だけでは判断しにくい実務上のケースも掲載されています。

例えば、次のような内容です。

申請期限が休日の場合
申請期間の最終日が土日・祝日などの閉庁日に当たる場合は、翌開庁日まで申請できます。ただし、郵送の場合は消印日ではなく、労働局に届いた日が基準です。締切日に発送しても間に合わない可能性があるため注意が必要です。

クレジットカードで設備代を支払う場合
設備代は原則として振込払いですが、クレジットカードでの支払いも認められる場合があります。ただし、原則として事業完了期限までに口座から代金が引き落とされていなければ助成対象になりません。

参照:業務改善助成金Q&A|厚生労働省

業務改善助成金は事前の準備が大切

令和8年度は申請できる期間が短く、賃上げは申請後、設備の契約や発注は交付決定後に行う必要があります。

自社が対象かを決めるのは、雇用保険被保険者で雇入れ後6ヶ月を経過した労働者のうち最も低い時給です。その額が改定後の地域別最低賃金を下回っていればコースを選び、人数と引き上げ前の時給から助成額を計算できます。

対象経費では、自動車が原則対象外となり、8ナンバーの特種用途自動車などが対象として残りました。

申請期限は発効日の前日か11月30日のいずれか早い日で、賃上げは、原則として申請後から地域別最低賃金の発効日の前日までに行う必要があります。まずは自社の発効日を確認してください。業務改善助成金について判断に迷う場合は、社会保険労務士法人グロースアシストなどの専門家への相談も検討してください。